2021.12.30
翻訳家・村井理子さんが絶賛! ノンフィクション好きなら観るべき「ドキュメンタリー」3作
漆黒の闇に引きずり込まれる『ゴールデン・ステート・キラーを追え / I’ll Be Gone in the Dark』
アメリカを震撼させた連続殺人鬼ジョセフ・ジェームス・ディアンジェロが最初の犯行から40年あまりの時を経てようやく逮捕されたのは、2018年4月のことだった。この逮捕の約2年前、誰もがその死を疑っていた黄金州の殺人鬼を、10年あまりにわたって執念深く追い続けた作家ミシェル・マクナマラが、数種の処方薬の過剰摂取によってこの世を去った。このドキュメンタリーは、ミシェルとともに犯人を追い続けた仲間と、残された夫であり俳優のパットン・オズワルト、そしてミシェルが残した原稿を『I’ll be gone in the dark』として出版した編集者が、生前のミシェルを回顧し、そして彼女の執念を世に知らしめようと奮闘する姿を追ったものである……いや、そうなるはずだった。大どんでん返しがあるのが実録ものドキュメンタリーの醍醐味だが、まさにそれが起きたのが本作だ。
残された仲間と夫は、彼女の死後に出版された捜査録をプロモーションするため全米各地を回るのだが、なんとこの最中に、黄金州の殺人鬼が逮捕されるのである。それを夫パットンらが知った瞬間も、しっかりと映像に収められている。
著者ミシェル・マクナマラがなぜ10年もの月日をかけて犯人を追い続けたのか、そしてなぜ彼女が命を落とさねばならなかったのか、考えれば考えるほど深い闇がそこにある。犯人に肉薄していた彼女が、その逮捕を見ないままこの世を去っていることが、何より胸に迫る。映像に残るミシェルの姿を見て欲しい。彼女の真っ直ぐな瞳を見て欲しい。闇に消えた犯人を追い続けた彼女が、とうとう闇に飲み込まれてしまった事実が、見る側をも漆黒の闇に引きずり込む。ノンフィクション=ドキュメンタリー好きであれば、見逃してはならない作品だ。
今回紹介した作品が観られる配信サービスはこちら(2021年12月現在)
『徘徊 ママリン87歳の夏』/アジアンドキュメンタリーズ
『アメリカン・マーダー 一家殺害事件の実録』/Netflix
『ゴールデン・ステート・キラーを追え / I’ll Be Gone in the Dark』/U-NEXT
「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」大好評連載中!
翻訳家・村井理子さんの人気連載「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」。隔週月曜日に更新中です。
この連載では、毎回エッセイのラストに、最近村井さんが読んだ本が紹介されています。これまで取り上げられた本は、コミックからエッセイ、実用書まで、多彩なラインナップ。
年末年始は動画鑑賞だけでなく、ゆっくり読書も……と計画されている方は、こちらの読書案内を参考にしてみてはいかがでしょうか。
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