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翻訳家・村井理子さんが絶賛! ノンフィクション好きなら観るべき「ドキュメンタリー」3作

翻訳家・村井理子さんが絶賛! ノンフィクション好きなら観るべき「ドキュメンタリー」3作

犯人の善良そうな表情が最高に恐ろしい『アメリカン・マーダー 一家殺害事件の実録』

 私は普段から殺人事件関連ドキュメンタリーをよく観ているが(それは私が連続殺人鬼について描かれたノンフィクション作品を多く訳していることが理由だが)、この『アメリカン・マーダー』に出てくる犯人ほど、わかりやすい犯人もないなと思う。映像は、コロラド州フレデリック在住のシャナン・ワッツと二人の娘が姿を消し、それを不審に思ったシャナンの友人が警察に通報する場面から始まる。この映像自体、警察が実際に撮影していたもので、後に犯人と判明するシャナンの夫のクリス・ワッツが「シャナンと娘達はどこへ?」と、焦っているようで妙にオドオドする様子までバッチリ出てくる。はっきり言って、冒頭から相当怪しい。でも、こんなに怪しい男が犯人だということは、通常あり得ないのが殺人事件だと思うのだが、クリスはあっさり逮捕され、あっさり自供する。わかりやすすぎる。しかし、このあっさりとしたところがじわじわと恐ろしい。なにせ、クリスは実の娘二人を手に掛けているのだ。
 そして妻と娘二人を殺害した凶悪犯であるクリスの犯行理由があまりにわかりやすい。筋トレをはじめてダイエットに成功し、若くて美しい恋人ができ、その恋人との未来を夢見たというわけだ。

 この作品が話題となった理由は、善良で気弱な男にしか見えないクリスがわが子を手に掛けるような凶悪犯だったというだけでなく、使用された映像がすべて、実際にシャナンとクリス、二人の間の娘達、親類、クリスの愛人によって構成されているという点だ。シャナンの友人たちから集めた映像、シャナンが実際にSNSに公開していた映像を駆使して描かれる理想の夫婦像が辿りついた先が、三人の殺害だったとはため息しか出ない。クリスの善良そうな表情が、最高に恐ろしい。

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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。

ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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