2022.12.19
京都の外れの伝説のカーショップで考えた「起業がもたらす幸福」とは?
京都の外れに、伝説のショップがある
自動車のサスペンションは基本的に金属バネの弾性を利用して、車の姿勢を安定させています。それに対して「ハイドラクティブ」は、油圧と窒素ガスの圧力を利用して、車体の姿勢をコントロールするという特殊な仕組みを持っていました。路面の凸凹は油圧とガス圧の双方で衝撃を吸収するだけでなく、ハイスピードのコーナリングや急ブレーキを踏んでも車体は限りなく水平の状態を保ち、ロールは最小限に抑えられます。更に、高速道路ではスポーツカーレベルまで車高が下がり、林道ではオフロード車レベルまで車高が上がるという、あらゆるシチュエーションでベストの走行性能を発揮する夢のサスペンションなのです!
そんな夢のサスペンションを搭載しているエグザンティアに乗りたいという私に、なぜ友人は「あ〜」という反応をしたのか?
油圧とガス圧でコントロールするフランス車という時点で、不安を感じますよね?
その通りです。当時、ハイドラクティブ(先代のハイドロニューマチックを含む)搭載のシトロエンは扱いが難しいことで有名だったのです。有り体に言うと、とにかくオイルが漏れる!
しかも、ハイドラクティブはサスペンションだけでなく、ブレーキとパワステにも連動しているので、オイル漏れが起きたらハンドルが重くなり、ブレーキが効かなくなる!
更にハイドラクティブはシトロエンしか取り扱っていないので、壊れても修理難しい! というか、正規ディーラーでも修理しきれない時があったりする!
というわけで、シトロエン車に乗ろうとする人は、「説得しても無駄」な変人という扱いだったのです。
さて、あの夜から10年ほど過ぎた2005年、私は京都の郊外、伏見城にほど近い山中の住宅街を抜けた奥深くにある、小さなカーショップを訪れていました。当時、沖縄大学から滋賀大学に移籍し、京都に居を構えたことを知った友人から、「界隈では伝説のショップがあるから、印鑑と通帳をもってすぐに行け!」と紹介されたのです。
こんな所に、本当に伝説のショップがあるのか? ホームページには、たしかにこの辺りにお店が会ったのだけど……。
伏見城の城下町の区画をそのままに迷路のような住宅街の道を抜けると、山肌に張り付くように切り開くように作られた駐車場が目に入りました。
「うわ、BX、CX、DS……うわぁ、Amiもあるやん!」
本当に山を切り開いただけの、舗装もされていない駐車場には、好きな人にはたまらない名車(迷車)が所狭しと並んでいました。しかも、露天で駐車しているのにもかかわらず、明らかにパーツ取り用の車とわかるもの以外、ピカピカで良コンディションでした。
「ようこそいらっしゃいました。何をお探しですか?」
20年前でも走っているのをほとんど見ることがなかったシトロエンの旧車群を前に、外装や内装の状態を見るだけでは飽き足らず、地面に這いつくばって足回りまで見ていた私は、どう考えても不審者だったと思います。
そんな私を驚くこともなく、柔らかな京都弁で迎えてくれたのが、その後10年近く付き合うことになった、アウトニーズの先代社長さんでした。