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異色肌ギャルメイクから考える、「そこそこ起業」が与えてくれる大切なもの

「そこそこ起業」が女性にレジリエンスを与えてくれる

 我が国では、ITや福祉、サービス業など今や様々なジャンルで女性企業家が誕生し、活躍している姿が紹介されるようになりました。企業家研究の研究者として、これまで何人かの女性企業家の方に取材させていただいたこともあるのですが、実はそのたびに少し「違和感」を抱くことがありました。ある時は「細やかさ」や「柔軟さ」という形で過剰に女性性を強調されたり、ある時は話し方から立ち居振る舞いまで私から見ても過剰なほどに「男性的経営者」を演じていたり、その方そのものの「正体」が見えてこないことが非常に多いように感じるのです。

 実はPettersson (2004)は、女性企業家が対外的(投資家やマスコミ、顧客)には過剰に女性性を優位性としてアピールし、社内では男性的に強権を振るうことを、フェミニズムの観点から批判しています(*1)。女性企業家の方もそれぞれに私的な動機と自己実現のために起業という手段を選んだのであれば、一方で過剰に女性であることを売りにし、他方で会社を維持するために女性であることを捨てて男性的に振る舞わねばならない状況は、すり減っていく一方ではないかと心配になります。

 しかし、つい最近、まったく違う観点から女性と起業の関係を問い直す論文が発表されました。

Padilla-Meléndez, A., Ciruela-Lorenzo, A. M., Del-Aguila-Obra, A. R., & Plaza-Angulo, J. J. (2022). Understanding the entrepreneurial resilience of indigenous women entrepreneurs as a dynamic process. The case of Quechuas in Bolivia. Entrepreneurship & Regional Development, 1-16.

 ボリビアの先住民族の女性企業家32名へのインタビュー調査を本にした論文が強調するのは、起業することで彼女たちがレジリエンスを獲得していくことです。レジリエンスは近年のビジネス用語としても注目されていますが、自分が不利な状況(家族・職場などでの人間関係の問題や、失業などの金銭的脅威)に対応できる個人の能力であり、抵抗力や回復力と訳されることがあります。この調査で取り上げられた起業とは、日本で注目されているようなキラキラ系の女性企業家とは異なり、低資本・低投資でスタートできる路上の市場での農作物や民芸品の販売です。巨大なビジネスではありませんが、その市場が女性に拓かれた場であるからこそ、彼女たちは貧困や孤独から逃れることができるし、窮地に陥っている女性を助けることもできるという、好循環が生じていることをPadilla-Meléndezらは指摘しています。

 このボリビアの市場の女性達の延長線に、miyakoさんの活動があるのではないでしょうか。グラビアの世界に留まっていれば、女性という性を一方的に消費されてしまったかもしれませんし、引退してもその先に安定した生活は望めなかったかもしれません。グラビアモデル三年目の危機に対応し、miyakoさんが「表現者」として第三の道を選べたのは、「自分を受け入れてくれるコミュニティ」を見つけて、そこから「表現者として、やりたいことをやりつつ稼いでいく」状況を作り上げていくことができたからです。いわば、自分が「好きなもの」を表現し、受け入れてくれるコミュニティを見つけたことが、miyakoさんにレジリエンスをもたらしたのです。

「私は、漫画とか本だけが家族だと思っていたのですけど、同じ活動をしている、いろんな表現をしている漫画家さん、同人作家さん、モデルさん、コスプレイヤーさんといった面白い人達とたくさん会って、その中で評価していただいたことで、あらゆる自信と安心感がついてきて。寂しいという思いが、かなりなくなったというか。本当に、一人ひとりに支えられているなぁと実感でき、強さを身につけられました」

 好きなものを好きと言うこと。そして、仲間を見つけること。

 私も含めて、簡単なことのはずなのに、実践できていません。

 競争せず気楽に生きていく「そこそこ起業」を目指すためには、まず「好きなもの」を見つめ直して、表現していくことが第一歩になるのではないでしょうか?

(*1) Pettersson, K. (2004). Masculine entrepreneurship-the Gnosjö discourse in a feminist perspective. Narrative and Discursive Approaches in Entrepreneurship. Edward Elgar, Cheltenham, 177-193.

 連載第9回は11/21(月)公開予定です。

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高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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