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異色肌ギャルメイクから考える、「そこそこ起業」が与えてくれる大切なもの

「大人の世界」のグラビアからフリーのモデルへ

 ご紹介いただいたのは、今やアートやファッションの世界にまで広がりを見せている「異色肌ギャル」のトレンドの発信者であるmiyakoさんです。

「コミケに参加はしていますが、ジャンルとしてはコスプレイヤーではないのですが、それでも大丈夫ですか?」

 miyakoさん自身はモデル、DJ、イベント開催、コスプレを中心としたメイク指導など幅広いジャンルで活動されており、ひとくくりに職業的なカテゴライズをすることはできません。私が取材を通して脳裏に浮かんだのは、肉体表現を通じて自分の世界観を他者に伝えていく「表現者」というカテゴライズでした。

「表現者」としてのmiyakoさんの出発点となったのは、大学生時代に「ちょっと変わったバイトのつもり」で始めたグラビアモデルのお仕事でした。グラビアのお仕事を中心に、イベントやお芝居など様々な仕事を体験しつつ、企業に勤務しているくらいの給与を得られるため、まさに「ちょっと変わっているけど、面白くて割の良いバイト」でした。

 とはいえ、グラビアモデルは「ずっと続けられる仕事」ではありません。基本的にはデビューしてから数年で旬が過ぎてしまいます。事務所側としても、旬を過ぎてしまったモデルさんを抱え続けることはできませんので、「次」の展開に進むことを考えます。よくあるパターンが、徐々に過激な露出になっていくというものです。

 miyakoさんも3年目を境に、「これからどうするのか?」という選択を迫られました。通常であれば、より過激な露出に進んでいくのか、このままフェイドアウトして引退していくかの二択に悩むことになります。しかし、miyakoさんは第三の道を選ぶことができました。

「その時は、あまりガッツリとしたセクシーな仕事はしたくなかったのですが、事務所から『そっちに行くか、辞めるかどちらかにしませんか』って話が出始めたんです。加えて、事務所は私を清楚系で売っていたんですが、それが私の趣味とは合わなくて、苦しいって感じ始めていたんですよね。一方で、私が完全趣味で、サブカル系の即売会に個人として事務所に許可を得てお手伝いしていて、少しずつ利益が出るようになったことも大きいです」

 miyakoさんは、グラビアモデルとしては清楚系の売り出し方をされていたのですが、アングラ・サブカル寄りの本来の趣味趣向とは大きく離れているもので、大きなストレスになっていました。そこで、グラビアモデルと並行してサブカル系の同人即売会で活動を始めており、少額ながら利益を得られる状況になっていました。そこでmiyakoさんは、自分が心から「好き」と言えるキャラを演じ、それを受け入れてもらえるコミュニティを得ることができました。このコミュニティの中でなら生きていけるという自信を持てたことで、「過激な露出」でも「引退」でもなく、「表現者」として生きるという道を選ぶことができたのです。

異色肌コスプレのブレイクから、拓かれた世界

 事務所を離れたmiyakoさんは、まずフリーの撮影会モデルとして活動をスタートしました。お客さんには自主制作の写真集を制作するためのセミプロのカメラマンから、単にコスプレしている女性の写真を撮りたい方、撮影を通じてモデルの女性とのコミュニケーションをすることを楽しむ方など、様々な方がいらっしゃるそうです。ただ、モデル側もカメラマン側も、「お互いの好きなものが受け入れられる場」が、撮影会だと思います。

「撮影会に来られる方は本当にバラバラで。Twitterで私を見かけて来てくれた人とか、アイドルイベントには行ったことない人もいます。写真撮影が趣味で週刊誌や写真集みたいに自分で撮ってみたい人が、ちゃんと照明も揃った場所で撮ってみたいとか……。あと私と一対一で話す機会は撮影会しかないんです。バーとかでイベントもありますが一対多人数になりますし、お酒飲めない方もいますので。そういう人には月一回の撮影会は喜んでもらえますし、私も嬉しいですね」

 また、フリーとなったことで、収入も大きく変わりました。フリーになったため、スケジュールの管理から化粧品・コスチュームの準備、金銭の管理まで自分で処理せねばなりませんが、手取り金額は大幅に増えたそうです。事務所所属の時と違って自分で仕事が選べ、収入も増えていったのです。

 他方で、miyakoさんは根底で、自分の好きな世界観を発信していく「表現者」であることを求めています。撮影会で「お客さん」の「好きなもの」を受け入れていくだけでは、フリーになった意味を見失うことになります。そこで、同じ趣味を持つ友達を誘って、カメラマンと会場を自分で手配して撮影しTwitterやInstagramで発表したのが、冒頭の「異色肌ギャル」という世界観だったのです。

「(グラビアモデル時代から)体全体に絵具をかぶるような仕事もあったんですが、それはノーメイクで。この状態の上にメイクしたほうが可愛いのになと思ってました。漫画やアニメで、肌の色が違うキャラが私はすごく好きだったので。それで、自分で色を塗った上でメイクしてみたのがキッカケです。それから、コロナ前だったんですけど、大型の撮影を主催しようと思って。何人か揃ってやったら絶対にかわいいって。気の合う仲間で作品撮影して、バズったのもキッカケですね。趣味でやっていたのをガッツりホンキで撮影しました。利益は考えていませんでした」

「異色肌ギャル」をSNSで発表した2017年頃、miyakoさんは「これで稼げる」とは思っていませんでした。むしろ、「好きなものを自分の体で表現」して、「共感をしてくれる人と繋がっていく」ことを求めていました。ところが、異色肌ギャルがファッションやアートの世界に広がり流行化していくなかで、グラビアの仕事だけでなくメイク指導の仕事も入るようになりました。

 実は、異色肌ギャル関連の仕事は化粧品や衣装の消耗が激しく、TVや雑誌から依頼があっても出費が大きいことが痛し痒しなのだそうです。しかし、異色肌ギャルとしてバズったことで、その世界観に共感してくれるファンが増え、クリエイター支援プラットフォームであるFANTIAなどのオンライン上での活動が軌道に乗るようにもなりました。これらのプラットフォームは、クリエイターとファンが直接交流できる場であるだけでなく、金銭的な支援が得られる仕組みです。自分で仕事もファンもコントロールできるという状況は、「表現者」としてのmiyakoさんが一番求めていたものなのです。

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高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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