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猫と「猫ばばあ」さんと私

 黒いアパートに集まる猫達を忘れかけていたある日。完全全面日陰庭に行こうと玄関から裏へ廻ろうとしたら、黒いアパートの外階段と地面のコンクリートの部分にうじゃうじゃと前回と比べものにならないくらい、たくさん猫が集まっていました。
「え。」と立ち止まってしまい動けなくなってしまいました。こちらの姿は丸見えの位置でしたが、猫達は逃げもしなければ、チラッと見て「ふーん、おかっぱか。」みたいなもんでした。
 黒アパートの外階段に10匹はいて、お座りしたり、スフィンクスポーズでいたり、頭ぶるっとしたり、地面にもゴロゴロしてる子がいたり、続々と集まってました。みんな堂々としていて、可愛いというより、猫達はそれぞれにみんな凛としていて社会があるように見えました。この前の『ホワッツマイケル』もいました。
「猫の集会」ってより「猫の集団」でした。

 その時、アパート2階の濃い茶色の扉がギギギギギと開いて、細身で赤茶色のクルっとした髪の毛、目は大きく少し垂れ目、スッとした小鼻、茶色だかのブラウスに白い編んだショールのようなものを掛け、薄い紫色に小花柄の長いスカートを履いたおばさんとおばあさんの中間のような、歳が行っているようにも見えるし、行ってないようにも見える「おばさんおばあさん」が出てきました。猫達がミーミー鳴き始めました。

「ハッ!」と私と目が合ったけど、おばさんおばあさんは見なかったことにしたかのように、自分の動きを止めませんでした。手に持っていた銀色の器を猫達の前に置きました。
 そうなのです。餌付けをしていたようです。
 猫の集会かと思っていたのは、おばさんのところにご飯を食べに集まっていた食いしん坊猫だったのです。近所に「猫ばばあ」がいたのです。
 怖いとか不気味とかそんな気持ちはなく、なんだかノスタルジックな気持ちと言いましょうか、不思議な世界に入り込んでしまった気分になりました。
 小さな銀の器だったので、何度もご飯を持って来てくれるのか、その1杯だけをあげていたのか分からないのですが、猫達はミーミーと鳴きながら2階に上がって食べてました。
 猫ばばあさんがしゃがんで銀の器を置き、猫ちゃん達を優しく見つめたり、少し撫でたりして愛で、また立ち上がりました。

 そのまま動けなくて見入ってしまっていた私を猫ばばあさんが睨むわけでもなく、吸い込まれそうな瞳でじっと見てきました。何をかはわかりませんが、何か気持ちの大事な部分を奪われそうと直感で思い、何かを持っていかれたら大変だ!と足にググッと力を入れて、手もグーにして、立っていました。

 この絵で私の記憶がピタっと止まっております。
 黒アパートの外階段の2階部分から見下ろすように見て来た猫ばばあさんと動けなくなった私。
 会ってはいけなかった人に会ってしまったと思いました。もしかしたら、猫ばばあさんも思っていたかもしれないです。「シッシッ!」とでも言って追い払ってくれたら、コミュニケーションとまでは行かなくても、何か交信を私達の間でしていたら、何か展開があったかなぁとも思います。
 それ以来、猫が集まっていたら、猫ばばあさんが出てくるかもしれないので、庭に行くのに神経を使いました。なんだかもう二度と会ってはいけない気がしましたし、話してもいけないと思いました。

 その後、地面に落ちてしまった子スズメを拾ったおじさんが子スズメを洗面器に入れて、水切り網をかぶせ、「おーい! スズメのお母さーん!」と叫んでいたことがあり、そのおじさんに声をかけられて、一緒にお母さんスズメを探したことがあったのですが、このことは全然話してOKだなと思ったので、お母さんにすぐ言ったら、
「知らないおじさんに付いていってはダメだから!」と怒られました。当たり前です。

 猫と猫ばばあさんと私が出会ったことは、また出くわしたいようなもう出くわさなくても大丈夫なような、不思議な気持ちです。
 あんなたくさんの猫、その後にも先にも見ていません。先日、お友達のお家に子猫ちゃんに会いに行ったり、猫ひろしさんにお会いしたからなのか、そんなことを思い出しました。

※次回更新は2020年8月26日(水)の予定です。

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川村エミコ

かわむら・えみこ●1979年神奈川県生まれ。お笑いコンビ『たんぽぽ』のボケ担当。主な出演作品に日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』、フジテレビ『めちゃ2イケてるッ!』、東海テレビ『スイッチ!』など。
オフィシャルブログ→https://ameblo.jp/sienne04
Twitter→https://twitter.com/kawamura_emiko
YouTubeおかっぱちゃんねる川村エミコ公式動画館→https://www.youtube.com/channel/UCGkqb7PyCVGojtVkAOL58Bg

撮影:齊藤晴香

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