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寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節の野菜は、売り場で目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところです。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、文庫化された『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを、「暮らしの手帖」などの写真が好評の砺波周平さんの撮影で紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第28回 てのひらの祈り

 原稿に取りかかろうと、このおむすびを撮影した日のメモを探してみたのだけれど、どうしても見つからない。事前に手描きのコンテを編集者と共有しているはずなのだけれど──と書こうとして、アッと思い当たった。
 作る予定になかったレシピだったのだ。キッチンに面したバルコニーのプランターからは、よく育った大葉が溢れ出しているし、注ぎ足し注ぎ足ししているにんにく生姜醤油もあるから、気分が乗って、こしらえたおむすびだった。撮影のために用意したのではない、正真正銘、大好きな普段の味。にんにく生姜醤油に大葉を漬けて、しんなりしたところでご飯をくるむだけ。
 作るのも気楽なら、育てるのも楽なのが、大葉という野菜だ。
 ゴールデンウィークを過ぎたあたりから、そろそろ大葉の種を植えなければと、そわそわしはじめる。大葉はいったん芽が出たらぐんぐん伸びるが、虫が付きやすい。とはいえ丸ごと口に入れるものだから、農薬は使いたくない。私の家では、ウォッカにとうがらしとにんにくを漬けた自家製の虫除け液を作って、葉に吹きかけている。おかげで毎年、収穫に困ることはない。 
 むしろなりすぎて大変なほどで、葉が硬くなる前に摘んでしまい、それでもすぐに消費できそうにないぶんは、にんにく生姜醤油に漬けておく。
 にんにく生姜醤油というのは、にんにくと生姜の端っこをよく拭いてから醤油に放り込んでおいたもの。調理のたびに半端に残ってしまうにんにくと生姜の使い途として、醤油を注ぎ足しては、古くなった端っこを取り出し、新たな端っこを入れて……を繰り返し、冷蔵庫に欠かさないでいる。香味野菜の香りが醤油に十分に移って勝手に美味しくなったものを、冷奴にかけたり、チャーハンの味付けにしたり、とにかく何かと使える。
 うだるような暑い日に、にんにく生姜醤油に漬けておいた冷たい大葉でご飯をくるんで朝食に出したら、まあ、なんと美味しい。食欲が万全でないときでも、すっと胃に収まっていく。お客さんが来る日はちょっと格好つけて、ひと口のおむすびにする。三角はおろか、洗練された丸にだってうまくむすべないし、大きさも不揃いなのは、母親のおむすびに似ている。

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寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で12万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』、版を重ねている文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』(河出書房新社)があり、いずれも話題となっている。

寿木けい公式サイト
https://www.keisuzuki.info/

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

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