よみタイ

寿木けい「土を編む日々」
春夏秋冬、旬の食材は、新鮮で栄養たっぷり。
季節の野菜は、売り場で目立つ場所に置かれ、手に入れやすい価格なのもうれしいところです。
Twitter「きょうの140字ごはん」、ロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、文庫化された『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』で、日々の献立に悩む人びとを救い続ける寿木けいさん。
食をめぐるエッセイと、簡単で美味しくできる野菜料理のレシピを、「暮らしの手帖」などの写真が好評の砺波周平さんの撮影で紹介します。
自宅でのごはん作りを手軽に楽しむヒントがここに。

第22回 ひかりの棒

 よい焼き鳥屋と蕎麦屋に共通してあるものは、ねぎだ。
 ねぎまにかじりつくとき、太ったねぎが柔らかく歯に当たる感覚があるとうれしい。ほかの串もきっとおいしいと期待してしまう。鴨南蛮のねぎが、熱い蕎麦つゆにぷっくり浮いて、箸で持つと絹糸のようにずっしり重いのもいい。ねぎの存在感ゆえに印象に残っている店が、東京にはいくつかある。
 それらのお店にねぎを卸している葱商「葱茂」の三代目・安藤将信さんと、ひょんなきっかけで知り合った。東京の下町千住には、日本で唯一のねぎ専門の市「山柏青果市場」が立つと聞いていて、以前から興味を持っていたのだ。
 葱商を名乗れるのは、十年以上修業を積んだひとか世襲のみ。東京でも5〜6軒しか残っていないそうだ。葱茂をはじめとする葱商が毎日早朝に集い、農家が選んだねぎを品定めする。なかなか一般の客が入れる場所ではないが、ねぎがずらりと並ぶ姿は壮観だろう。安藤さんの審葱眼に適ったものは、千住をもじった「千寿葱」として売られる。スーパーに卸される一般的なものから贈答用の立派なものまで、価格もそれぞれ。オンラインでも買うことができる。当然、数は少ない。

「これはなにか違うぞ」
 持っただけでそう感じさせるねぎだ。剣道部出身としては、夜道をこれを持って歩けば鬼に金棒。料理家にねぎ。腹の底から力が湧いてきそうな、硬さと重さなのである。ちょっとやそっと振り回しただけでは、へこたれそうにない。
 12月から最盛期を迎える冬ねぎは、普段は糖度8%前後のものが、果物も顔負けの18%にまで上がるという。巻きがみっちり濃密で、首の緑と白の境界をやさしく押せば、跳ね返してくる張りがある。明治時代、ある鍋屋が「飛び切り甘くて煮崩れをおこさず、それでいて口のなかへ入れるととろける」と語ったことが評判になり、ぜひうちにもという店が続出したそうだ。
 安藤さんの好きな食べ方を聞いてみたところ、天ぷらとのお答え。2〜3センチに切って、かき揚げにするという。次の日の昼に家でも作ってみた。衣のなかで蒸されたねぎは、噛めばむぎゅと歯ごたえあり。舌にのせると、とろりと柔らかい。形が崩れないならばグラタンにも良さそうだと思って作ったのが、今回のレシピだ。 

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

寿木けい

すずき・けい●富山県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社で雑誌の編集者として働きつつ、執筆活動をはじめる。出版社退社後、暮らしや女性の生き方に関する連載を持つ。
2010年からTwitterで「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe)を発信。フォロワーは現時点で12万人以上。現在、東京都内で夫と二人の子どもと暮らす。
著書にロングセラー『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』、エッセイ集『閨と厨』、版を重ねている文庫版『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』(河出書房新社)があり、いずれも話題となっている。

寿木けい公式サイト
https://www.keisuzuki.info/

砺波周平

となみ・しゅうへい●写真家。1979年仙台生まれ北海道育ち。
北里大学獣医畜産学部卒業。大学在学中から、写真家の細川剛氏に師事。
2007年東京都八王子市に東京事務所を置く傍ら、八ヶ岳南麓(長野県諏訪郡富士見町)に古い家を見つけ自分たちで改装し、妻と三人の娘、犬、猫と移り住む。
写真を志して以来、一貫して日々の暮らしを撮り続ける。現在、作品が「暮しの手帖」の扉に使用されている。東京都と長野、山梨に拠点を持ち活動中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事