よみタイ

突然のケガと入院によって一生忘れないであろう2つの教訓を一気に学んだ話

冷蔵庫に大事なあんみつを置き去りにしたまま入院することになるなんて

ある時、消費期限が切れたカップ入りのあんみつをもらった。おにぎりやお弁当をもらって帰ることはよくあったが、あんみつというのは珍しかったそうである。食費を少しでも節約して、服を買ったり遊びに行ったりするお金にまわしていたという友人にとって、甘いものにお金を使うなんて滅多にないことだった。それゆえ、あんみつが食べられるのが嬉しくて仕方なく、一人暮らしの部屋に持ち帰ってもすぐには食べず、翌日大事に食べようと冷蔵庫にしまったそうだ。

さてその翌日の昼、近くで用事を済ませて部屋に帰ろうと自転車を漕いでいた友人が、近所の道路にさしかかった。車道と歩道の区別もない道で、途中に車が一台停まっていた。その脇を自転車で通り過ぎようとした瞬間、いきなり車のドアが開き、友人は自転車ごとそこに激突。道に倒れ込んだ。

幸いなことに交番が近くにあり、事故を目撃していた警察官がすぐに駆けつけてくれた。また、さらに幸いなことに事故現場の目と鼻の先に病院があり、急患として受け入れてもらうことができた。

アゴのあたりを強くドアにぶつけてしまっていたようで、診察してもらった結果、下の歯茎を何針も縫うことに。こうして書いていても思わず顔がゆがんでしまうほど痛そうな話である。そして処置が終わると、そのまま入院するようにと医師に言われた。

その夜、好きなバンドのライブを見に行く予定だった友人は愕然としたそうだが、鏡を見てみると顔の下半分が大きく腫れていて口を開けることもできない。顔に包帯をぐるぐると巻かれ、病室のベッドに横たわっているしかなかった。

今やコンビニスイーツのレベルはすごい。あんみつだってケーキだって専門店に引けを取らない
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それから退院までの4~5日の間、食事は流動食のようなものをわずかに開けた口の隙間から流し込むだけ。そんな友人がベッドの上でずっと考えていたのは冷蔵庫の中のあんみつのことだった。
早く部屋に戻ってあんみつが食べたい。学校の同級生に差し入れしてもらった本を読みながら、なかなか過ぎていかない時間をなんとか乗り切った。

ようやく退院となり、病院から真っ直ぐに自分の部屋へ向かう。口はだいぶ元通りに動くようになっていたし、痛みも和らいでいたからあんみつを食べることができそうだ。そう思って冷蔵庫の扉を真っ先に開けたが、そこにあったのはすっかり変色してしまったあんみつだった。もともと消費期限を過ぎたものだったこともあってか、劣化が早かったようである。

泣きたいほどの悲しみにおそわれた友人はその瞬間、「食べたいものは、そう思った時にすぐ食べる」と誓いを立てたという。
「明日食べようとか今度食べよう、って先延ばしにするのは絶対にあかんねん。その時食べへんかったら後で後悔する。人生いつ何があるかわからんねん」と、その言葉だけを聞くとずっしりと重みを感じるが、それと同時に「あんみつぐらいまた買えばいいのに……」と思ってしまう私は心がすさんでいるだろうか。

とにかくそれ以来、友人は20年経った今でも「あれ食べたい」と思ったら即行動するようにしているとのこと。よっぽど悔しかったようである。

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新刊紹介

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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