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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」

突然のケガと入院によって一生忘れないであろう2つの教訓を一気に学んだ話

良かれと思って、ごく軽い気持ちでついた嘘が……

「食べたいものはその時すぐ食べる」という学びに加え、もう1つ友人の心に刻まれたことがあった。友人はコンビニバイトの他にもいくつかのアルバイトを掛け持ちしていて、退院したその日にちょうどシフトを入れてしまっていたのだという。

退院したとはいえ、まだ顔を包帯で覆っているような状態だし、人前で仕事ができるような感じではない。バイト先に電話して休みたい旨を告げ、その理由として「今、ケガをして入院しておりまして」と伝えたという。本当はもう退院しているのだが、そこまで細かく経緯を説明するのが面倒だった。それに「入院していまして」と告げる方が休む理由としても納得してもらいやすそうだと考えたという。

するとバイト先のスタッフは驚いた様子で「えっ! 入院してるんですか⁉︎ どこの病院⁉︎」とたずねてくる。
「〇〇病院です……」「大変でしたね、お大事にしてくださいね。シフトのことは気にしないでください」というようなやり取りがあって電話が切れたのだが、それからしばらくして「今〇〇病院にお見舞いに来てるんですけど、病室はどこでしょうか」と先ほどのスタッフから電話がかかってきたのだ。

友人はギョッとしつつ「え! 今ですか? すぐ、すぐ……行きます!」と答え、数時間前に退院してきたばかりの病院へ走った。するとロビーにその人がいて、入院しているはずなのになぜか外から入ってきた自分と目が合った。先方は「あれっ?」というリアクションを見せ、その後になんとなく気まずい空気が流れ、そのままロビーでお見舞いの品だけを手渡して帰っていったという。

「変な嘘をつくと後で気まずいことになる」と、友人はケガからもう1つの学びを得た。
今も友人のアゴにはその時の傷がうっすらと残っていて、鏡に映るその傷を見ていると、この2つの教訓が一緒に胸に浮かぶのだという。

(了)

ロビーでお見舞いの品を受け取ったときの気まずさを思うと……むう……
ロビーでお見舞いの品を受け取ったときの気まずさを思うと……むう……
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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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