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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」

同僚が聞かせてくれた面白ネタを他の人にも話したら発覚した衝撃の事実

「はあ? お前、何言ってんの?」と、当然、ヤンチャ男性は突っかかっていく。
いよいよ大変なケンカが始まるかと思われたところだったが、スーツ男性がヤンチャ男性の胸ぐらを掴むようにして「拾えって言ってんだろ! 早く拾え!」とすごむ。すると、その迫力に圧倒されたのか、ヤンチャ男性は一瞬にしてシュンとなってしまったそうである。

野生の動物同士の縄張り争いのごとく、威嚇いかくし合った段階で相手の戦闘力というものは瞬時に察知されるのであろう。ヤンチャ男性はスーツ男性を「自分には敵わない相手」と認識したらしい。
うつむくように地面に目を落とし、渋々という感じで散らばった野菜を拾い、あっけにとられて立ち尽くしている老婆のレジ袋に戻していく。

今は有料のレジ袋だが当時は無料であったろう……ってそれはまた別の話
今は有料のレジ袋だが当時は無料であったろう……ってそれはまた別の話

しかし! スーツ男性の制裁はそれでは終わらなかった

それが終わり、「はいはい、これでいいんだろ」という感じでそのまま歩き去ろうとするヤンチャ男性をスーツ男性が今一度引き止めた。
そして「おい、謝れよ」と言う。

ヤンチャ男性の方は、しばらくの間ためらう様子だったが、ふてくされたように「すいませんでした……」とスーツ男性に向かって頭を下げた。

するとスーツ男性は再びヤンチャ男性の胸ぐらを引き寄せながら、今まで聞こえてきた中でも一番大きな声で「俺に謝ってどうすんだよ⁉︎ ババアに謝れっつってんだよ!」と叫んだ。

「わはは! ババアって!」と、その話を聞いた私は笑った。
「な! 怒りにつられておばあさんへの言葉遣いまで乱暴になっちゃってんの。そこはババアって言っちゃだめだろ」と同僚も笑う。

私はこの話がすっかり気に入った。
緊張感が徐々に高まったところに、スーツの男性の正義感がちょっと暴走してしまうところがなんとも意外な展開という感じで面白いではないか。
その後、周りの友人の数人に「この間、会社の同僚から聞いた話なんだけどね」と、同じ話を聞かせた。誰に話してもウケがよく、「何その展開!」とみんな笑うのだった。

スーツを着た男性と一口にいっても様々な職業が考えられる。彼は一体……
スーツを着た男性と一口にいっても様々な職業が考えられる。彼は一体……
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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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