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甘い言葉で誘い搾取? 海外出稼ぎのリアル【育ちの良い人だけが知らないこと 第4回】

マーダーミステリー作家・かとうゆうかさんの、初のノンフィクション連載『育ちの良い人だけが知らないこと』。
前回は、ある彫り師の壮絶な人生について綴りました。
今回のテーマは「海外出稼ぎ」。かとうさんが取材した実態をレポートします。
イメージ画像:PIXTA
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海外へ渡航して売春する女たち

この『育ちの良い人だけが知らないこと』という連載を始めるときから、「海外出稼ぎ」について取り上げようと決めていた。

言うまでもなくその実態を「育ちの良い人」は知らないだろうと思ったからだ。

海外出稼ぎというワードは記録的な円安が一気に進んでから急速に耳にする機会が増えた。この記事では海外で働くようになった介護士や看護師や寿司職人ではなく、売春をするために海外に出る女性たちを取り上げる。

長年上昇しない賃金の問題やコロナ禍の影響もあり、現在日本では海外へ渡航して売春の仕事をする若い女性が後を絶たない。
理由は単純明快で、日本と比べて報酬が高いからである。
しかし多くの国で売春行為は違法であり、また就労ビザを取らずに収入を得ることも違法である。

そのため深刻な社会問題となっており、海外出稼ぎをテーマにした記事やYouTubeも多く、見聞の深い方も多いかもしれない。

より深淵を覗くことができるよう、私はTwitter(現X)でアカウントを作った。
21歳、ソープ嬢、歌舞伎町のホストにハマっていて多額のお金が必要。大まかにこのようなキャラクターを設定して、その女の子になりきって日常のツイートを数日続けた。

「海外出稼ぎでも行こうかな」

満を持して書いたそのツイートには100件を悠々と超えるDMが届いた。
以下、エージェントからのDMの一例を抜粋する。

「海外出稼ぎにご興味ありますか?ギャラの中抜きありません‼️バック業界最高で月の手取りアベレージ350〜500万程です💰
日本人スタッフ常駐しておりますのでサポートは万全です🙇‍♂️」

「ツイート拝見させていただきました!出稼ぎ先を紹介させて頂けないでしょうか!交通費や寮費等も最大限還元させていただきます💰お気軽に折り返しのご連絡頂けると幸いです😊」

「海外出稼ぎはとても稼げるのですが、エージェントを間違えると詐欺に遭うことがあります😖
単価を釣り上げて交渉し現地では全く違う単価で働かせられたり、飛ばしの携帯を使い働き終えた頃には連絡も取れずということもあります💦
僕は実際にお会いし、ご説明をして信頼して頂いてから海外に行ってもらってます!」

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彼らは親しみやすさの演出のために国民的アニメのキャラクターをアイコンにしたり、ツイートも「紹介した女の子がこんなに稼げた」と詳細な数字を載せる。
これは「自分は良い店と提携があり仕事ができる」「稼がせてあげられる」という印象のPRであり、手が込んでいる。

儚げな女の子のイラストをアイコンにしたソープ嬢アカウントからは、

「いきなりdmごめんなさい🥺同業の方と色々お話ししたくて良かったら仲良くしてほしいです😖私は◯◯っていいます!何さんって呼んだらいいですか?絡んでくれたら嬉しいです☺️」

と人懐こい印象のDMが届いた。
だがそれも何回かやりとりをしてみると最終的に「信頼できる私のスカウト紹介しますよ🩷」とスカウトマンに誘導される。
同じ悩みを持つ女の子のふりをしたエージェントか、紹介料狙いの女性なのだ。

それらを一つ一つ時間をかけて目を通している途中、何度も吐き気や息苦しさに襲われた。

紹介料という名のマージンを得ようとするエージェントたちから滲み出る「搾取してやろう」という気持ちがたっぷりとこめられた文章は、フェイクの優しさや丁寧さでベタベタに何層にもかけてコーティングされていた。

それがこんなにも不愉快でグロテスクだということを私は初めて思い知った。

海外出稼ぎの歴史

エージェントと呼ばれる仕事の歴史を振り返ると、明治初期には口入屋と呼ばれるそれに近い仕事は存在していた。
この業者は15歳にも満たない少女や、幼児でさえも中国に渡航させたという。
日本人の口入屋が売るから中国人が買う。この時代は他の国でも人身売買は風習のように行われていたとされているが、鎖国が解かれたことでこのような事態になるとは誰が想像しただろう。しかしそこでしか生きられない人びとはどの時代にも存在するのだ。

「からゆきさんはこれら口入屋の手をへて、海外へ娼妓を送り出すことを専業とするものたちへわたされた。あるいはその専業者に直接さそわれた。」

(『からゆきさん 異国に売られた少女たち 』森崎和江著,朝日文庫より)

引用元の書籍では、膨大な資料調査をもとに、明治以降の「からゆきさん」の実態を明らかにしている。明治、大正にかけて貧しさから海外に渡り娼婦として働いた女性「からゆきさん」を令和の海外出稼ぎの先駆者とするならば、その歴史はなんと長きにわたることか。

エージェントが得る利益

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エージェントと呼ばれる出稼ぎ先への紹介者は業者に女性を紹介すると紹介料をもらえるだけでなく、女性が仕事を続ければその何割かを継続的にもらうことができる。
例えば客が3万円を払ったとしてもお店側が40〜55%程度(女性のレベルや店によって異なる)を持っていき、その中の何割かはエージェントの財布に入ることになる。

だからエージェントは女性を手厚くサポートするし、仕事を紹介した後もメンタルのケアを怠らない。だがこれは断じて優しさではなく利己的な欲からの行動に過ぎない。

私はこれまでの人生経験でその罠を見抜くことができるが、地方から上京したての邪気のかけらもない女性だったらそれを利己的な欲だと気づくことはできず、騙されてしまうのではないだろうか。

しかしながら現在は自ら進んで「旅行もできる上に日本で風俗をするより稼げる」とプラス思考で海外出稼ぎに行く女性がとても多い。
国内で安いバックで風俗をするよりもドルを稼いだほうが円安で儲かるし、チップ文化のある国では多額のチップを貰えることもある。
その期待が逮捕されるリスクを上回っているのが現状だ。

届いたDMの中から複数のエージェントに「どの国が熱いんですか?」と質問をしてみた。

「ドバイはめちゃくちゃいいですよ!金持ち多いので稼げます」

「今出稼ぎが多くて入国審査が厳しいと言われてますが、通っちゃえばアメリカとオーストラリアが稼げます!ダミーホテル取ったり、しっかりと対策してれば大丈夫ですよ!」

「容姿レベル高めですがマカオが熱いです」

「カナダが熱いです!短期なら近場の台湾とかフィリピンもおすすめです!」

みんな言うことが違うのはエージェントの契約店舗やバック率が異なるからだろうか。

複数のエージェントとやりとりを進めて様々な質問を投げかけることにした。

「英語ができなくても大丈夫なんですか?」と聞くと「翻訳アプリ使ってもらって、あと喋んなくても笑ってるだけで結構いけます笑」と数秒で返信がくる。

「いけます」とは会話がなく気まずい空気もプレイを始めてしまえば関係ないからコミュニケーションを取る必要がないということだろう。

「現地には世話役的な人っているんですか?」

「店舗スタッフとかママさんみたいな人がいるんで安心してください」

さらに詳しく話を聞いてみると、日本人がいるわけではなく中国人のエージェントかその国のスタッフがいるということらしい。
言うまでもなくリラックスできる環境ではないだろう。

航空券のチケット代は女の子が自腹で負担するところがほとんど(!)で、滞在先のホテル代や雑費は基本的にはかからないというエージェントもいれば宿泊代は自腹だというエージェントもいる。

売春の3つのシステム

海外出稼ぎでは主に国によってシステムが違っている。
大きく3つに分けるとインコール、アウトコール、サウナと呼ばれるものだ。どれも基本的に本番(性行為)ありが前提だ。

インコールとは女性が待機をしているホテルにお客さんが足を運んで来るシステム。
部屋は大体ツインルームで、女性は一つのベッドで仕事をしてもう一つのベッドで眠る。

アウトコールはお客さんの予約したホテルに女性が向かうシステム。日本でいうデリバリーヘルスがイメージしやすい。

サウナは大浴場のようなところにお客さんが入ってきて、その中にずらりと女性が並び、指名されると別室に行って本番が始まる。

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新刊紹介

かとうゆうか

1993年生まれ。マーダーミステリー作家。シナリオを担当したマーダーミステリーに「償いのベストセラー」「無秩序あるいは冒涜的な嵐」「ザ キャリーオン ショウ」などがある。共著に「本当に欲しかったものは、もう Twitter文学アンソロジー」。

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