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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場

【文豪と愛猫】亡き愛猫の毛を自らの文学碑の側にひっそりと埋めて〜ひたすら優しく慈しむように猫を愛した室生犀星

まさに猫可愛がりしたカメチョロとの別れは突然に……

ところで、犀星は夏になると軽井沢の別荘で過ごしていましたが、そこに一匹の三毛猫がおりました。避暑のためにしか訪れない犀星のことを忘れず懐くこの猫が可愛すぎて、カメチョロと名付け、東京に連れて帰ることにします。

犀星は猫が悪さをすると「ターダ!」と怒ったそうです。「ターダ」とは動物語で「コラ!」という意味だそうです。まぁ、犀星先生がそう言うならそうなんでしょう。

庭の木に爪を立てたりすると「ターダ!」、家具を引っ掻いてるところを見かければ「ターダ!」と怒っていた犀星先生ですが、カメチョロには全然怒りません。犀星先生、カメチョロには激アマなのです。普段は誰にも触らせずいつもピカピカに磨いている文机にカメチョロが乗っても怒りもしません。
ターダは? ねぇ犀星先生! ターダはいいの? まるで孫を溺愛するおじいちゃんのようです。

そんなカメチョロが突然、病に倒れます。医者の診断では黄疸だという。自分で食事がとれない程に衰弱してゆくカメチョロ。犀星の懸命の看病もむなしく、その日の夕方にカメチョロは亡くなってしまいました。
すっかり気を落としてしまった犀星は、

「君、カメチョロの遺髪いはつを切ってほしいのだがね」(『うち猫そと猫』より)

と朝子に頼み、朝子が切り取ったそれを受け取ると、書斎に籠ってしまったそうです。

軽井沢で出会った三毛猫、カメチョロ(写真提供/室生犀星記念館)
軽井沢で出会った三毛猫、カメチョロ(写真提供/室生犀星記念館)
大きな欠伸のカメチョロ。さぞかし犀星先生のおうちが居心地よかったのでしょう(写真提供/室生犀星記念館)
大きな欠伸のカメチョロ。さぞかし犀星先生のおうちが居心地よかったのでしょう(写真提供/室生犀星記念館)

犀星亡き後にわかったカメチョロへの思いの深さは涙もの

それから2年後、犀星も肺癌でこの世を去ります。朝子は犀星の遺言に従って軽井沢にある室生犀星文学碑に分骨を納めに行きます。その時、朝子は文学碑の近くに見慣れない石灯籠の宝殊が置かれているのに気が付きました。

同行した大工の棟梁に聞くと

「去年、先生があそこになにかを埋めて、その目印のためにあの石を置いたのですよ。先生はいったい何を埋められたのでしょうね」(『うち猫そと猫』より)

と言う。朝子はカメチョロの遺髪が埋められているに違いないと直感したそうです。

カメチョロについて

「軽井沢で生まれ育った猫は、東京へ連れて来てはいけなかったのだ。人間がいくら愛情を傾けても、弱い猫には空気の汚れが耐えられなかったのだろう」(『うち猫そと猫』より)

と悔やんでいた犀星はカメチョロを故郷に戻してやり、自分の死後もそばに居てやれるようにと、この地にカメチョロの遺髪を埋めていたのでした。

 

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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