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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場

【文豪と失恋】片思いからの大喧嘩からの大失恋~宇野千代への横恋慕が招いた梶井基次郎のドロ沼死闘

「よし、やろう。さあ来い!」死闘は始まった!

「私は梶井の話も、その書くものも好きなのであった。思わず、一緒に話し込み、夜の更けるのも忘れることがあったが、それは、のちに人々の噂し合ったように、私が梶井に対して、或る特別の関心を持ったからではなかった」と特別な関係ではなかったと千代は言いますが、二人の男はもう止まりません。

梶井と尾崎士郎はあるパーティで鉢合わせます。
最初に仕掛けたのは梶井でした。当時左翼思想の小説を書く傾向のあった士郎に向かって、
「よぉ、マルクスボーイ」
と吐きつけます。

対する尾崎士郎は、
「わたしは低く叫んで立ちあがった。胸の底で何か一つの堅い殻がぱちん!とはぢけるやうな音を聞きながらわたしは右手に握りしめた煙草を火のついたまゝふりかざして、一気に彼の面上に敲きつけた」

……なんと梶井の顔面に火のついた煙草を投げつけたのだ。
梶井は眼の前に落ちた煙草をつまみあげ、じっと考えこむように眼を閉じる。
そして猛然として立ちあがる梶井。

「よし、やろう。さあ来い!」

そこに千代が止めに入る。
士郎は千代の肩を突き飛ばし「貴様に止める権利があるのか!」と叫ぶ。

一人の女をめぐって争う二人の男と、それを止めに入る女! 
どうでしょう、この昼ドラのようなドロドロ展開!

のちに士郎と千代は離婚することになりますが、梶井と千代が結ばれることはなく、3年後、梶井は30歳の若さで他界することとなります。

宇野千代に「イケメンじゃない」と言われてしまった梶井基次郎(昭和6年、兵庫県川辺郡稲野村の兄・梶井謙一宅の庭にて。撮影/梶井謙一)
宇野千代に「イケメンじゃない」と言われてしまった梶井基次郎(昭和6年、兵庫県川辺郡稲野村の兄・梶井謙一宅の庭にて。撮影/梶井謙一)

梶井の友人である中谷孝雄は二人について、「梶井の生涯におけるそれが唯一度の厳粛な恋愛だったと信じて疑わない」と言います。

一方、宇野千代は晩年に梶井との関係について聞かれた際、なんの関係もないと言い切ったうえで「私は面食いでしょ。(中略)だから私は惚れるはずはないのよ」と答えますが、果たしてこれは本音だろうか?
 
「宇野さん、僕の病気が悪くなって、もし、死ぬようなことがあったら、僕の家に来てくれますか」
「ええ、行きますとも」
「そして、僕の手を握ってくれますか」
「ええ、握ってあげますとも」

梶井と千代が最後に会った時、二人はこのような会話を交わしています。千代に梶井への恋情があったかどうかはわかりませんが、そこには互いの才能を認め尊敬しあう気持ちがあったように思います。
恋多き女性といわれた宇野千代にとって、前述の「面食いだから……」発言は彼女流の照れ隠しだったのではないでしょうか。

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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