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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場
「文豪」というと皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
いつも気難しそうな顔をしてて、メガネかけてヒゲなんか生やしてて、伊豆あたりの温泉旅館の一室で吸い殻山盛りの灰皿を脇目に、難しい小説なんか書いてる…。そんなイメージを持たれがちな彼らですが、実は現代人とたいして変わらないような、実に人間臭い面もたくさんあるのです。

今回ご紹介するのは、何度もノーベル賞候補になるほどの大文豪でありながら、名作の数々とともに恋愛にまつわるスキャンダルもたくさん歴史に残したこの方です。

【文豪と偏愛】3度の結婚と激情を華麗なる作品へと昇華〜谷崎潤一郎のフェティシズム溢れる恋愛

谷崎潤一郎のフェティシズム溢れる恋愛観

谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう)
1886年7月24日 – 1965年7月30日
明治末期から戦後の昭和まで活躍した小説家。永井荷風に絶賛され新進作家として世に出て以来、フェティシズムを扱った作品や日本の文化や伝統をテーマにした格調高い作品を残す。
ノーベル文学賞候補に何度も名前があがり、日本人で初めて米国文学芸術アカデミー名誉会員にも選出され「大谷崎」と呼ばれた。

前代未聞の「細君譲渡事件」……自分の妻を友人にプレゼント?

『痴人の愛』『秘密』『刺青』『富美子の足』などなど、あらゆるフェチシズムを描き「耽美派」と呼ばれた大作家・谷崎潤一郎は、自身の奥さんを佐藤春夫に譲ってしまう、いわゆる「細君譲渡事件」がよく知られています。
 
谷崎潤一郎は生涯で三度結婚しており、最初の奥さんは千代という女性でしたが、当初、谷崎は千代の姉の初という女性に惚れていました。この初という女性は、どうやら気の強い女性だったらしく、つまりM気質な谷崎潤一郎にとって性癖どストライクな女性だったわけです。ところが残念。この初さんはすでにご結婚されておりました。しかしそこでめげないのが大谷崎です。

「初の妹もきっと、初と同じような気の強い、おれ好みの性格に違いない!」

谷崎潤一郎と最初の奥さん、千代/芦屋市谷崎潤一郎記念館提供
谷崎潤一郎と最初の奥さん、千代/芦屋市谷崎潤一郎記念館提供

谷崎は初の妹、千代と結婚することにします。

ところがしかしこれは大誤算でした。千代は初とは違い、おとなしく従順で夫に尽くすようなタイプだったのです。刺激的な女性が好みの谷崎にとって千代との結婚生活は退屈なものでしかありません。勝手に期待して勝手にがっかりする谷崎先生。なんとも身勝手な話です。そこに千代のさらに妹の・せい子が谷崎の家で居候を始めます。
せい子は、千代とは正反対の性格で、奔放でわがまま、毎晩のように遊び歩いては遅く帰ってくることもしばしばで、そのことを注意する谷崎にも平気で口答えするような気の強い女性でした。初と同じ性格なのは千代ではなくせい子だったのです。
谷崎はせい子のことを「野獣のような女」と言いながらも「でもなんか、嫌じゃない…」とすっかりM心を刺激され、恋に落ちてしまいます。当時谷崎35歳で、せい子はまだ十代でした。
ちなみに谷崎の作品『痴人の愛』に登場するナオミという女性はせい子をモデルとして描かれています。ナオミという少女に惚れた主人公が、少女の自由奔放っぷりに振り回されるという物語で、谷崎とせい子の関係そのままです。

 

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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