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感動のフィナーレ!柴田勝家が最後に辿り着いた、推しと向き合うということ

「向き合えたこと」

 その後、ワシは結局、彼女と仲直りはしなかった。あまりにも複雑な経緯で大喧嘩をした手前、たった一日で全てを解消することはできないと思ったからだ。

「だが、最後にチェキだけは撮ろう」

「うん」

 卒業式が終わる直前、たった一枚だけチェキを撮った。どこか諦めたような顔のワシと、複雑な笑みを浮かべる彼女が並んで写っていた。完成したものが渡されたのは後日だったが、そこには「向き合えたこと」と書かれていた。

 結構じゃないか、どれだけ嫌いになった相手でも目をそらすよりはずっと良い。

「みんな、今日はありがとうね!」

 やがてイベントも完全に終わり、時空転送装置(エレベーター)にお客さんが詰め込まれていく。きょうちゃんのお見送りを受けながら、ぞろぞろと帰路につく人の列。ワシはその最後の一団に混ざり、エレベーターへと乗り込んだ。

「きょうちゃん」

 誰かが一階のボタンを押し、エレベーターの扉がしまりかける瞬間、ワシは振り返って彼女に声を掛けていた。

「これまでの良い思い出だけ、持って帰るよ」

 何気なく吐いた言葉に彼女が微笑んだ。実際、このエッセイでも今まで書いていないことは多くあるが、それはワシにとって必要のない思い出なのだ。

「戦場へご出陣です! ご武運を!」

 彼女の最後の挨拶。これでワシの戦国メイド喫茶での物語もおしまいだ。

エピローグ

 最後に少しだけエピローグを書くことにしよう。

 織田きょう卒業式が終わり、戦国メイド喫茶を後にした常連たちは全員で飲み屋へ繰り出した。朝までやっている秋葉原の磯○水産だ。これまで経験してきた打ち上げで一番の規模だったと思うし、誰もが積もる話でいっぱいだった。

「これで戦国メイド喫茶も一つの時代が終わったと思うよ」

 そう口を開くのは、以前のエッセイにも登場した蘭さんだ。それに頷くダンディな男性も、これまた以前に登場したパパ。まさしく最終回に相応しい登場である。

「織田時代が終わったら、今度は織田チルドレンが秋葉原を支えてくのかね」

 そんな感想にワシは肩をすくめる。織田の時代が終われば、次に来るのは賤ヶ岳の戦いだ。そうなれば柴田勝家は歴史から立ち去るしかない。

「そういえば蘭さん、幽霊メイド喫茶行きました? 朝までやってるんで、このあと一緒に行きません?」

「え、マジで? 行こっかな」

 だが、ワシはまだまだ秋葉原に居座るつもりだ。

 全身全霊で誰かを推すことも、本気で喧嘩をすることも、この街でなければ味わえなかったことだ。また幸いなことに、今でも当時の仲間たちと遊ぶ機会に恵まれている。どれもこれも、全て戦国メイド喫茶で征夷大将軍になったからこそ得たものだ。

「さて、それじゃ行きますか、っと」

 こうしてワシは、再び秋葉原に向けて歩き出す。

(完)

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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