2022.10.27
感動のフィナーレ!柴田勝家が最後に辿り着いた、推しと向き合うということ
「向き合えたこと」
その後、ワシは結局、彼女と仲直りはしなかった。あまりにも複雑な経緯で大喧嘩をした手前、たった一日で全てを解消することはできないと思ったからだ。
「だが、最後にチェキだけは撮ろう」
「うん」
卒業式が終わる直前、たった一枚だけチェキを撮った。どこか諦めたような顔のワシと、複雑な笑みを浮かべる彼女が並んで写っていた。完成したものが渡されたのは後日だったが、そこには「向き合えたこと」と書かれていた。
結構じゃないか、どれだけ嫌いになった相手でも目をそらすよりはずっと良い。
「みんな、今日はありがとうね!」
やがてイベントも完全に終わり、時空転送装置(エレベーター)にお客さんが詰め込まれていく。きょうちゃんのお見送りを受けながら、ぞろぞろと帰路につく人の列。ワシはその最後の一団に混ざり、エレベーターへと乗り込んだ。
「きょうちゃん」
誰かが一階のボタンを押し、エレベーターの扉がしまりかける瞬間、ワシは振り返って彼女に声を掛けていた。
「これまでの良い思い出だけ、持って帰るよ」
何気なく吐いた言葉に彼女が微笑んだ。実際、このエッセイでも今まで書いていないことは多くあるが、それはワシにとって必要のない思い出なのだ。
「戦場へご出陣です! ご武運を!」
彼女の最後の挨拶。これでワシの戦国メイド喫茶での物語もおしまいだ。
エピローグ
最後に少しだけエピローグを書くことにしよう。
織田きょう卒業式が終わり、戦国メイド喫茶を後にした常連たちは全員で飲み屋へ繰り出した。朝までやっている秋葉原の磯○水産だ。これまで経験してきた打ち上げで一番の規模だったと思うし、誰もが積もる話でいっぱいだった。
「これで戦国メイド喫茶も一つの時代が終わったと思うよ」
そう口を開くのは、以前のエッセイにも登場した蘭さんだ。それに頷くダンディな男性も、これまた以前に登場したパパ。まさしく最終回に相応しい登場である。
「織田時代が終わったら、今度は織田チルドレンが秋葉原を支えてくのかね」
そんな感想にワシは肩をすくめる。織田の時代が終われば、次に来るのは賤ヶ岳の戦いだ。そうなれば柴田勝家は歴史から立ち去るしかない。
「そういえば蘭さん、幽霊メイド喫茶行きました? 朝までやってるんで、このあと一緒に行きません?」
「え、マジで? 行こっかな」
だが、ワシはまだまだ秋葉原に居座るつもりだ。
全身全霊で誰かを推すことも、本気で喧嘩をすることも、この街でなければ味わえなかったことだ。また幸いなことに、今でも当時の仲間たちと遊ぶ機会に恵まれている。どれもこれも、全て戦国メイド喫茶で征夷大将軍になったからこそ得たものだ。
「さて、それじゃ行きますか、っと」
こうしてワシは、再び秋葉原に向けて歩き出す。
(完)
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