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あいつぐ出禁!? 柴田勝家の心が徐々に推しから離れていった理由

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。 前回は、推しが改名し「織田」になったエピソードでした。 今回は、柴田さんの心が少しずつ推しから離れていく寂しい過程が描かれます。
イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

戦国メイド喫茶の忘年会

 平成28年(2016年)の暮れ、ワシは戦国メイド喫茶の忘年会に参加していた。秋葉原のカラオケパセラの大部屋を貸し切り20人ほどの常連が集まって思い思いに楽しんだ。互いの推しを語り合い、普段はメイドさんたちが歌う楽曲を熱唱してコールを入れる。あまりに盛り上がったため、その時間帯の戦国メイド喫茶には客がほとんどいなかったという逸話すら残した。

「ああ、ここの常連になって良かったなぁ」

 とは、その帰りに思ったことだ。結局、忘年会からはしごで全員が戦国メイド喫茶に行き、いきなりの団体客で店をてんてこ舞いにさせたのも良い思い出だ。ちょうどクリスマスイベントで、ワシの推したる織田きょうちゃんがサンタ衣装を着ていた。

「もう! かっちゃん、待ってたんだから!」

「ワハハ、すまんすまん!」

 なんとも陽気なやり取りで、店にいた常連の皆で笑った。なんとも愉快な一日だった。こんな日がずっと続くと信じていたのだ。

織田軍の新しい仲間

 年が明け、平成29年(2017年)になっても大きく変わるようなことはなかった。ただ一人、織田きょうちゃんを推す織田軍に新しい仲間が加わった。

「あの、僕もきょうちゃん推していいですか?」

「おお、どんどん来てくれ! 一緒に織田軍を盛り上げよう!」

 ワシの返答にはにかむのはヨシ君と名乗った青年だ。彼は秋葉原にたまに生息している可愛い系イケメンだった。ワシの大学の後輩で一緒に戦国メイド喫茶に行っていたとんとん(最近は登場してないが)と似た雰囲気を持っている。彼は新潟出身で、最近になって上京して秋葉原にハマったという。

「お、勝家、ヨシ君もおるな。一緒に帰ろうや」

 戦国メイド喫茶の閉店時間、そう話しかけてきてくれたのは同じ織田軍として仲良くなったのぶにゃんだ。彼が車を回してくれたので、ワシとヨシ君、そしてルシファーと猫さん、織田軍揃って帰路についた。車中ではいかにきょうちゃんが可愛いかを語り合い、推し自慢をしていく。さらに途中できょうちゃん本人のツイキャスが始まれば、これに全員で参加してコメントをつけていく。一つ読まれるごとに我々の心は弾み、のぶにゃんの車も弾んだ。

「織田軍に入って良かったです!」

「だろォ~~~???」

 はにかむヨシ君に対し、ワシは織田軍としての先輩風を吹かしていた。暴風域である。

「次のイベントは僕も頑張りますよ!」

 そんな期待の新人を迎えた次のイベントも大成功だった。

 初春の頃、織田きょうちゃんの二周年を祝うイベントが開催された。彼女もいつしか先輩側、入れ替わりの激しいメイド業界にあって、三年目ともなれば秋葉原でもひとかどのメイドさんである。店に通う人で彼女を知らない客はなく、イベントを開催すれば必ず客が集まる。花束を贈呈する段ともなれば、彼女に気持ちを受け取ってもらおうと10人ほどの人間が列をなすほとだ。

「みんな、ありがとうね!」

 何も怖いものなどない。我が世の春である。しかし、いつの時代も完成とは終わりへの第一歩なのだ。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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