2022.8.11
戦国メイドカフェでの柴田勝家の全盛期? そして新時代の幕開けへ……
朝倉軍の青春の1ページ
「さってと、花屋に行くかぁ」
などと楽しそうに言って猫さんが車に乗り込む。運転するのはのぶにゃんで、同乗者はルシファーだ。今回はのぶにゃんが車を出してくれ、朝倉軍の四人でドライブがてらスタンドフラワーの注文に行くことになった。
「勝家、教えてもらった花屋どこや?」
「湯島の方にあるみたいじゃな」
四人を乗せた車は軽快な音楽を流しながら秋葉原方面へと向かっていく。なお大体が巨漢だから車高もベコベコに低くなっていた。
「あと寄せ書きに必要な使うペンやメッセージカードも買いに行くか」
「サイリウムも買っとこか?」
「なんか新しいことしたいなー、風船とか飛ばす?」
「大変なことになるなw」
そんな会話をしつつ、車内では戦国メイド喫茶でもおなじみのアイドルソングやアニメソングが流れている。オタクが集まれば当然、どこであれ湧いてしまうものだ。当然、落ちサビともなれば全員でケチャを送り……。
「イエッタイガァ!!」
「揺らすなや! 事故るわ!」
そして全員で笑う。そんな楽しい青春の一ページだ。
「さて、じゃワシは先に戦国メイド喫茶行ってくるか」
そのまま花屋での注文を終え、買い物も済ませ、ワシは一足先に戦国メイド喫茶に行くことにした。近くの路地で車から降り、三人とは別行動をすることとなった。ワシが降りた途端に車の車高が戻った。
それはともかく、戦国メイド喫茶には目当ての朝倉きょうちゃんがいた。最近は仲良くできているし、イベント前だからか、彼女もどこかソワソワしていた。
「かっちゃん! 聞いて聞いて、今度のイベントね……」
「おう、どうした」
「あ、ううん。まだ秘密! 楽しみにしててね!」
意味深なことを言ってきょうちゃんは去っていく。何か良いことでもあったのかと思っていたが、程なくしてこの謎も解けた。
「改名」についての軍議
「勝家さーん。どうもー、今ちょっといいですかぁ?」
例のごとく店の非常階段でワシが休憩しているとお店の人が話しかけてきた。
「最近、きょうちゃん頑張ってるじゃないですかぁ」
「そうじゃなぁ、イベントも安定して回せるようになってきたのう」
ワシが答えると、なにやらお店の人はモジモジとしていた。
「それなんですけど、あのですねー、これだけ彼女も人気になってきてですねー、なんていうか朝倉でいいのかな、って思い始めまして」
「え、なんじゃって?」
「いやー、そのー、だって朝倉義景ってマイナーじゃないですか」
福井県の人に謝れ、と思ったがワシも謝る立場だから強く言えない。
「だから、ここで一度名前を変えるというか、別の武将のところに行ってもらうというか」
「ああ、なるほど。人気のメイドさんだから、店的にも有名な大名の娘にしたいってことですか?」
「ぶっちゃけそうです。でぇ、ですねー、真田かおりこちゃんも卒業したし、大河ドラマも『真田丸』やってるし、きょうちゃん自身もりこちゃんと仲良かったじゃないですかぁ。だから……真田」
「ダメです」
ワシは速攻で断っていた。
いや、別にワシがどうこう言う話でもないのだが、なんとなく真田を名乗るのは違う気がしたのだ。ワシにとって真田かおりこちゃんとの思い出は大事なもので、それは真田軍の人たちにとっても同じだろう。いずれ別の真田を名乗るメイドさんが現れるとしても、彼女がいなくなってすぐに既にいるメイドさんが名を継ぐのは受け入れられなかった。
朝倉きょうちゃんも、真田かおりこちゃんも、それぞれに物語がある。そんな二人の物語を混ぜてしまいたくなかったのだ。
「えー、じゃあどうしようかな……」
なんてことを切々と語ってみれば、お店の人もいくらか考え直してくれたようだった。しかし、やはり名前だけは変えるつもりだという。
「せめて何か、朝倉きょうちゃんの物語に相応しいものにしてくだされ。朝倉義景と真田じゃあ活躍した時期も遠すぎるし」
「そうですねぇ。うーん、じゃあ朝倉家は滅亡したとして、あ、そうか、柴田勝家が滅ぼしたのか」
「おい」
「で、ふんふん、そうなるときょうちゃんは朝倉の姫でなくなるとして……」
やがてお店の人も何かに納得したのか、ここでの会話は終わった。店内に戻れば、やけに嬉しそうなきょうちゃんの姿が目に入った。
記事が続きます