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柴田勝家、戦国メイドカフェで征夷大将軍になる
マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。

前回は、戦国メイドカフェで失われた愛を求める男のお話でした。
今回は、ついにやってきた"推し"の卒業。その時、柴田さんは何を思うのか? いよいよ前半戦のクライマックスです。

柴田勝家が「FF10」のティーダの気持ちで迎える〝推し〟の卒業

イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

「侍大将」だったころの柴田勝家

 2015年の晩春、ワシが戦国メイド喫茶に通うようになって数ヶ月が経っていた。

 その頃の手形(ポイントカード)の位は「侍大将」で、ひとまず常連と言えるくらいの立場になった。とはいえ、この後には「家老」と「大名」、そして「征夷大将軍」と続き、その必要枚数は倍々に増えていく。だから常連とはいえ、まだまだヒヨッコくらいだ。

 それでも、何より推しのきゃりんちゃんと話したいという思いはあったし、どんどん秋葉原での友人も増えてきて、非常にモチベーションは高い。未だ侍大将時代の柴田勝家は、まだまだ上を目指していた。

FF10の名シーンをメイド喫茶の日常に重ね合わせる

 それはそれとして、この時期、ワシが所属する大学文芸部ではFF10ごっこが流行っていた。ファイナルファンタジーといえば国産RPGの代表格で、その中でも10は傑作と名高い一本だ。そんな作品だからこそ、ゲーマー大学生にとっては共通の話題になり、名シーンを再現したり、細かすぎて伝わらないモノマネなどすれば爆笑の嵐だ。

 で、どうしてFF10の話がワシらの琴線に触れたのかといえば、ゲームの世界観が秋葉原のメイド喫茶界隈を彷彿とさせてしまったからだ。

「勝家さん、やっぱユウナが異界送りで幻光虫に囲まれるとこ泣けるッスよね」

 これは文芸部の後輩であり、メイド喫茶仲間でもあるとんとんのセリフだ。

 ここだけ抜き出すと意味不明かもしれないが、これらの単語は全部FF10の用語だ。作中では魂のようなものを幻光虫という淡い光で表現しており、人間が死んだ際には異界送りという舞踊を伴う葬送儀礼を行う。これを行えるのが召喚士と呼ばれる存在で、ヒロインのユウナがこれに当たる。

「あの光って、オタクのペンライトじゃないッスか」

「ああ、まさに似たような光景を見てきたな」

 ワシらはFF10の名シーンたちをメイド喫茶での日常に重ね合わせていた。

 たとえば推しのメイドさんが卒業すると、秋葉原に来なくなる人もいる。そういう人たちは虚構の世界から去ったという意味で「他界した」と言われる。卒業するメイドさんが歌って踊るのに合わせ、オタクたちが色とりどりのペンライトを振る姿などは、物言わぬ魂が昇華され消えていくように見える。

 だからワシらはメイドさんの卒業式のことを異界送りと呼んでいた。

 FF10の重要なテーマは鎮魂と祈りで、ここ最近でメイド喫茶における別れを経験したワシらにとっては身につまされるものがある。いつも店で楽しく話していた人たちが、推しの卒業を機に去っていく。ある意味では日常に帰っていくのだが、秋葉原でのそれは死と同義なのだ。

「でも他界した人の方が幸せそうじゃないスか?」

「それな」

 事実、秋葉原を去ってから一年たらずで結婚した元オタクたちを多数知っている。

「最後かもしれないだろ。だから全部話しておきたいんだ」

 さて、そんなFF10の影響を受けたせいか、ワシも戦国メイド喫茶に行くたびに推しの卒業について考えるようになってしまった。

「きゃりんちゃん」

「なーにー?」

 ある日、いつものようにきゃりんちゃんと話している最中、不意に寂しげな気分になってしまった。彼女もいつかは店を卒業し、人々の前から去ってしまうだろう、そんな時、ワシもまた一つの光となって消えてしまうのだろうか。

 楽しい時期だったからこそ、終わりが来ることを惜しいと思ってしまった。

「あー、きゃりんちゃんに何か言いたいことがあったんだけどな」

「なになに? なんか真剣そうだね」

 そんな風に話しかけてしまったが、直前まで言おうとした言葉は出てこなかった。ちなみに言おうとしてたのは「最後かもしれないだろ。だから全部話しておきたいんだ」だ。これはFF10の主人公ティーダのセリフで、オープニングにも使われている名言だ。完全に脳内ではテーマBGMの『ザナルカンドにて』が流れていた。

「いや、まぁ、なんだ。いつも、ありがとう」

「なにそれー、あはは、変なの」

 ワシはティーダほど上手くは喋れなかったが、その時はきゃりんちゃんと楽しく話すことができた。ただ、お互いに何かを伝えきれていない感触があった。

「こっちこそ、ありがとうね。翔ちゃん」

 最後にそう言って笑うきゃりんちゃん。いつもと変わらない明るい笑み、そのはずだった。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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