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柴田勝家が「好きなメイドさん人気投票」でたどり着いた、たったひとつの冴えたやりかたとは?

まさに悪魔の質問…!

 そんなある日のこと、戦国メイド喫茶にテレビ番組の取材がやってきたのだ。

 以前の回でも語ったが、この店は珍しい戦国コンセプトのメイド喫茶として多く取材されているので客の方も慣れたものだ。店内にカメラが入っていても、誰も気にせず普段通りにメイドさんと楽しくお喋りに興じている。ワシも普通に席に通されると、その直後に番組スタッフの人から出演同意書とアンケート用紙が手渡された。

「ほう、『お願い!ランキング』の取材なのか」

 今回、戦国メイド喫茶を取材しに来たのはテレビ朝日系列の深夜の情報バラエティ番組だった。ワシも見ている番組なので少し嬉しい。そこで手渡されたアンケート用紙を見れば「店でお気に入りの料理」や「好きなメイドさん」といった項目があった。どうやら様々なメイド喫茶を紹介しつつ、各店舗の人気メイドやグルメをランキング形式で発表しようというのだ。まさに番組名通りだ。

「む、待てよ」

 しかし、ワシは気づいてしまった。この「好きなメイドさん」という項目が、まさに悪魔の質問だということに。

 思わず店内を見渡す。この日の出勤メイドは多い方で、朝倉きょうちゃんに真田かおりこちゃんもいる。それに合わせて、それぞれのメイドさんを推している常連が集まっていたのだ。

(これは戦争になるな……!)

 単なるバラエティ番組とはいえ、人気商売であるメイド喫茶の中で明確にランク付けするというのは様々な火種となるはずだ。ただでさえ先輩メイドの数が減っており、新人メイドが多い時期だった。群雄割拠状態である。ここでランキング上位となってテレビに露出するとなれば、新規のお客さんからも「あ、テレビで見た子だ」と覚えが良くなり、その後の人気に直結するだろう。それこそ信長公が将軍足利義昭の後ろ盾を得たことで、各国の勢力図が大きく動いたのと同じことだ。

 ただ、逆を言えばランク外になることで「自分は人気がないんだ」と思ってしまうメイドさんもいるだろう。それは翻って「自分は選ばれなかったのに、なんでアイツは」という嫉妬に繋がる。となれば不必要な対立が生まれ、店の空気も悪くなってしまうかもしれない。

(どう答えるのが正解なんだ?)

 ワシは迷っていた。素直に行くならば、アンケート欄に推しの朝倉きょうちゃんの名前を書けばいいだけだ。しかし、以前の修行明けイベント以来、きょうちゃんを推そうとする人もジワジワと増えていた時期でもあった。

(いずれ店のトップになる、そう約束したが……。いや、早すぎる、もしもランキングで一位に選ばれて、彼女自身がメイド喫茶での仕事に満足してしまったら……)

 不安になったワシは周囲を見回した。アンケート用紙を配られた常連客たちが、それぞれ思い悩むような表情をしていた。彼らも各々、自分が推しているメイドさんの名前を書いたのだろうか。一方でワシと同じようなことを考えている人間もいるのか、次第に城内にヒリつくような空気が流れ始める。

「みんなー、そろそろアンケート回収するってー」

 そんな緊張感の中、のほほんとした声が聞こえてきた。

「あ、めるる!」

 顔を上げれば、そこに徳川めるるちゃんの姿があった。

京都の公家衆ばりの深謀遠慮

 後日、件の『お願い!ランキング』が放映された。

 戦国メイド喫茶の常連たちも気になっているのだろう。ツイッターでも盛り上がっており、最初に朝倉きょうちゃんが映った際などはワシも嬉しくなった。番組はそのまま戦国コンセプトの紹介や、常連のインタビューなどと続く。店の名物料理である「毛利元パフェ」や「信長包囲網黄金飯」も紹介され、同時に人気メイドランキングが発表された。

「一番人気のメイドさんは、徳川めるるちゃん!」

 よし、と思わずテレビの前で頷いていた。

 画面の中でめるるちゃんが可愛らしく微笑んでいる。おっとりした性格で人懐っこいところが人気だと紹介され、彼女を褒める常連さんたちの言葉が続く。

「やっぱ、めるるは良いよな」

 ワシもテレビに向かって同意する。単純にめるるちゃんに人気があるのはもちろんだが、彼女は完全マイペースなメイドさんで、それこそランキングなんて気にしない性格だった。加えて言えば、在籍しているメイドさんの中でも古参かつ出勤率も高い。可愛さもあって、徳川という名前の格もある。彼女を選ばない理由の方が少ないのだ。あの日、戦国メイド喫茶の中には京都の公家衆ばりの深謀遠慮があった。

「どうやらみんなも気づいたみたいだな。全員が生き残る、たった一つの答えに」

 デスゲームから生還した人間みたいな感想があった。でも最良の結果だったように思う。「一番人気はめるるちゃん」と言われれば、メイドさんもお客さんも誰もが納得する答えなのだから。

「さて」

 番組内では続けて人気メイドランキングの第二位と第三位も短く紹介された。三位は真田かおりこちゃんで、二位が朝倉きょうちゃんだった。
「今はここで良いさ。目指すべき上がある方が良い」

 ところで、ワシは誰を「好きなメイド」に選んだのか。実は我が事ながら思い出せないでいる。それは、この後に起こる様々な事件のせいなのだが、今回はここまで。

(つづく)

 次回連載第16回は6/23(木)公開予定です。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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