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柴田勝家が「好きなメイドさん人気投票」でたどり着いた、たったひとつの冴えたやりかたとは?

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。

前回は、柴田さんに新しい推しが誕生したエピソードが語られました。
今回は、柴田さんの頭を悩ませた「好きなメイドさんアンケート」のお話です。
イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

「推しと推されは似る」という秋葉原の格言

 前回、ワシは新たな推しとして朝倉義景の娘である朝倉きょうちゃんを推すことを決めた。推しのいるだけで日々にメリハリが生まれるので、戦国メイド喫茶に行くのも楽しみになってきたところだ。

 そんな時期であるが、ここでもう一人、ワシには大事な人がいた。

「あ、勝家さん、今ね、きょうちゃんビラ配りに行ってるよ」

 入店して注文したところで話しかけてきた子、彼女は真田幸村の娘である真田かおりこちゃん(通称はりこちゃん)だ。出会った当時は面白お姉さんかと思っていたが、よく話すようになってからは責任感が強くて真面目な性格の子だとわかった。出会った当初はアンダーリムの眼鏡もかけていたから、どこか委員長キャラにも見えた。

「そうそう、勝家さんが推してくれてるって、きょうちゃんも喜んでたよ」

「ああ、きょうちゃん、りこちゃんと仲良いもんな」

「そうだねー、私のこと〝お姉ちゃん〟とか呼んでくれるし」

「まぁ、今の店を回してるのはりこちゃんだもんな。みんなも頼りにしてるさ」

 そう伝えてみれば、りこちゃんは気恥ずかしそうに微笑んでいた。店での立ち位置的には彼女も中堅なのだが、ちょうどこの時期、先輩メイドが多く卒業していたこともあって新人の面倒を見ることが多かったのだ。

 だから新人メイドである朝倉きょうちゃんも、りこちゃんを「お姉ちゃん」と呼んで、カルガモの親子よろしく後ろをついて回っていた。そういった関係もあり、朝倉軍のワシも彼女と親しくしていた。

 ところで、以前にもチラっと言ったが「推しと推されは似る」という秋葉原の格言がある。

 性格が合ってるから好きになるのは当然なのだが、それ以上に精神性が近い者同士が重力のように引かれ合う風景が見受けられる。たとえばワシがいた前田軍は全員が「自由」だったし、何でも器用にこなす細川りなちゃんを推してる人は有能な人が多く、とらえどころのない徳川めるちゃんを推す人は同じように正体不明な人が多い。そういった意味で、真田かおりこちゃんを推す人も彼女と似た性格をしている。つまり、真面目で優しい人が多いのだ。

「あ、勝家さーん。この間ぶりですー」

「おお、つばささん」

 と、こうして話しかけてくれたのは戦国メイド喫茶でできた友人たるつばささんだ。彼は真田推しとして知り合ったのだが、ワシが秋葉原で出会ってきた人間の中で一番優しい人だ。まさに「推しと推されは似る」のである。

「そういえば、今度の外部イベントの情報見ました?」

「あ、見た見た、きょうちゃんとりこちゃんがライブ出るやつ」

「ですですー、楽しみですねー」

「ねー」

 ワシはつばささんと二人、店のカウンター席で並んできゃっきゃしていた。彼は推しとしてりこちゃんのことが好きだし、ワシも彼女のことが好きだから話題が弾む。そんな最中、店内に新しい客が来た。

「うーっす」

 明らかに怖い人だった。サングラスをかけ、シルバーアクセをつけ、完全にギャングスタラップの世界から抜け出してきたタイプの人だった。

「わッ……わッ!」

 彼はワシとつばささんを見つけると、睨みを利かせて近づいてくる。

「おい」

「わァ……」

「勝家氏につばささんじゃねぇか。おつかれー」

 サングラスを外した彼がニッコリと笑う。

「まーちゃん!」

 彼はまーちゃん、メイド喫茶で知り合ったワシの友人だ。見た目だけならヤンキーを通り越してその筋の人だし、秋葉原を歩くだけでオタクたちが避けていくタイプの人間だが、これでどうして戦国メイド喫茶の常連だった。元はAKB界隈で特攻服を着ていたらしく、アイドル現場からスライドしてメイド喫茶に来るようになったという。

「にしてもよぉ、今日もりこちゃんは可愛いなぁ」

 そして、彼も真田推しなのである。「推しと推されは似る」という格言の通り、まーちゃんも実は優しくて真面目なのだ。というか優しくて真面目な人だと信じて原稿を書いている。もし怒られが発生したらワシはボコボコにされるからヨロシク。

 ともかくも、ワシは朝倉きょうちゃんを推すのと同時に、真田かおりこちゃんと真田推しの人たちと仲良くやっていたのだ。

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新刊紹介

柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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