2022.2.24
戦国メイド喫茶に現れた青い目のサムライ
ルカの強烈なジョーク
ルカの留学が終わり、スイスへ帰る日が迫っていた。
「えぇ、ルカ、帰っちゃうの~?」
そう言うりかりんの声は悲しそうで、他のメイドさんたちもルカの帰国を惜しんでいるようだった。ルカは振る舞いも紳士で、メイドさんたちからの人気も高い。
「うむ、これでスイスにもメイド喫茶あればな」
「そうだね、いつか作りたいね」
「じゃあ、私もそこに移籍する~」
ワシの冗談にルカもりかりんも笑ってくれる。この風景も見られなくなるのかと思うと、やはり胸に来るものがある。会えずとも友人であることに変わりはないが、遠く離れてしまうのは寂しいかぎりだ。
「また日本に来るよ。向こうの休みは長いから」
焼肉屋でルカの送別会も終え、いよいよ戦国メイド喫茶に来られるのも最後といった日。とにかく豪勢に、楽しく騒ごうと思い、友人連中とメイドさんとでルカを囲んでいた。悲しい別れなど似合わない、とばかりに馬鹿騒ぎをした。
「なぁ、ルカ! スイスにりかりん連れてってやれよ!」
「あ、いいかも、連れてって!」
たくみんやりかりんも楽しげで、そんな冗談にルカも笑っている。最初に出会った頃と同じ、爽やかな笑みだった。
「うん、じゃあ、りかりんをスーツケースに詰めて持ってくよ!」
ワハハ、ワハハ、と皆で笑う。とにかく楽しい思い出だ。そんな言葉を最後に、ルカは故郷スイスへと帰っていったのだった。
ルカが日本を発ってしばらく後、ワシは彼の最後の言葉を吟味していた。
「いや、かなりヤベぇ発言じゃないか?!」
うっかり忘れていたが、ルカも秋葉原に通い続けた猛者であった。ジョークのキレもヤバい方向に進化している。ある意味では、この街が一人のスイス人青年の人生を変えたのかもしれない。
秋葉原は楽しく、また恐ろしい街だ。
(つづく)
連載第8回は3/10(木)公開予定です。