2020.4.12
結婚は罰ゲームなんですか?
義母の介護と夫不在の日々
義母が突然倒れた。
脳梗塞で、大きな麻痺が残った。
夫と冷え切っていることが明白でも、
嫁であるアレ子を優しく受け容れてくれる義母に、
心から感謝をしていたし、
義母と税理士の関係を知ってからいっそう、
義母を大切にしたいと思っていたから、
不自由になった義母の姿には胸が痛んだ。
夫は、変わり果てた義母の姿にショックを受けたのか、
ますます「忙しい」と言って、
家に帰らないことが多くなった。
もはや子供を授かることもあきらめていたし、
夫婦仲は冷え切っていたから、
アレ子にとって夫は「同じ家にいる他人」のような存在となった。
身体だけでなく言葉も不自由になった義母には、
介護が必要となったが、アレ子はお金に頼らずできるだけ、
自分で義母の介助をするようにした。
それは「嫁のつとめ」ではなく、義母への思いからだった。
アレ子は義母のためにぬるま湯で手足をさすってあげたり、
天気がいい日は車いすで外に散歩にも行った。
そして義母とコミュニケーションをとりながら、
義母の資産管理の仕事をこれまで以上に手伝った。
そして税理士がきたあとは、アレ子がしばらく部屋から出て、
義母と税理士の二人の時間を作ることも、いつものことになった。
義母と税理士は、ときにはアレ子の目もはばからず、
手を握り合い見つめ合っていた。
そのときの義母の表情は、アレ子が何をどう介護するよりも、
満たされたものだった。
アレ子は、そんな義母を見て、「よかった」と思うと同時に、
どうしてもう少し前に、二人は一緒になれなかったのだろうと、
胸がつまった。
夫の不倫をうかがわせる怪電話
自宅の電話が鳴った。
「財務省の……さんの奥さんですか?」
「私、あなたの旦那の不倫相手です!早く離婚してください!」
「私、あなたの旦那の子供を妊娠していますから!」
その頃になると、アレ子と夫の寝室は当然に別となり、
食事も一緒にとらないようになっていた。
アレ子にとってはますます他人となりゆく夫のことだから、
これが「イタズラ電話なのか」どうかも、
どうでもいいことだった。
ただ見知らぬ女の「妊娠していますから!」という言葉は、
子供を授かることがなかったアレ子の胸をえぐった。
アレ子だって子供がいればと何度思ったことだろうか。
子供がいれば、もう少し夫との関係も冷え切らず、
せめて「世間並み」の幸せな結婚だったかも知れない。
しかしそのとき、アレ子は別のことも思った。
義母は、アレ子の夫という子供がいたから、
運命の相手とけっきょく結ばれることもできず、
義父との結婚を続けざるを得なかったのではないかと。
あの電話の見知らぬ女が本当に夫の不倫相手で、
夫から
「不倫相手と一緒になりたいから、
離婚してほしい」
と言われたら、むしろアレ子はホッとするのではないかとすら思った。
子供がいないのだから、
アレ子は結婚からいつでも解き放たれるのではないか。
現にアレ子は、夫が家に帰らない日、
どこで寝泊まりしているのかもまったく気にすらしていない。