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結婚は罰ゲームなんですか?

義母の介護と夫不在の日々

義母が突然倒れた。
脳梗塞で、大きな麻痺が残った。
夫と冷え切っていることが明白でも、
嫁であるアレ子を優しく受け容れてくれる義母に、
心から感謝をしていたし、
義母と税理士の関係を知ってからいっそう、
義母を大切にしたいと思っていたから、
不自由になった義母の姿には胸が痛んだ。
夫は、変わり果てた義母の姿にショックを受けたのか、
ますます「忙しい」と言って、
家に帰らないことが多くなった。
もはや子供を授かることもあきらめていたし、
夫婦仲は冷え切っていたから、
アレ子にとって夫は「同じ家にいる他人」のような存在となった。

身体だけでなく言葉も不自由になった義母には、
介護が必要となったが、アレ子はお金に頼らずできるだけ、
自分で義母の介助をするようにした。
それは「嫁のつとめ」ではなく、義母への思いからだった。
アレ子は義母のためにぬるま湯で手足をさすってあげたり、
天気がいい日は車いすで外に散歩にも行った。
そして義母とコミュニケーションをとりながら、
義母の資産管理の仕事をこれまで以上に手伝った。

そして税理士がきたあとは、アレ子がしばらく部屋から出て、
義母と税理士の二人の時間を作ることも、いつものことになった。
義母と税理士は、ときにはアレ子の目もはばからず、
手を握り合い見つめ合っていた。
そのときの義母の表情は、アレ子が何をどう介護するよりも、
満たされたものだった。
アレ子は、そんな義母を見て、「よかった」と思うと同時に、
どうしてもう少し前に、二人は一緒になれなかったのだろうと、
胸がつまった。

夫の不倫をうかがわせる怪電話

自宅の電話が鳴った。

「財務省の……さんの奥さんですか?」
「私、あなたの旦那の不倫相手です!早く離婚してください!」
「私、あなたの旦那の子供を妊娠していますから!」

その頃になると、アレ子と夫の寝室は当然に別となり、
食事も一緒にとらないようになっていた。
アレ子にとってはますます他人となりゆく夫のことだから、
これが「イタズラ電話なのか」どうかも、
どうでもいいことだった。

ただ見知らぬ女の「妊娠していますから!」という言葉は、
子供を授かることがなかったアレ子の胸をえぐった。
アレ子だって子供がいればと何度思ったことだろうか。
子供がいれば、もう少し夫との関係も冷え切らず、
せめて「世間並み」の幸せな結婚だったかも知れない。
しかしそのとき、アレ子は別のことも思った。

義母は、アレ子の夫という子供がいたから、
運命の相手とけっきょく結ばれることもできず、
義父との結婚を続けざるを得なかったのではないかと。
あの電話の見知らぬ女が本当に夫の不倫相手で、
夫から

「不倫相手と一緒になりたいから、
 離婚してほしい」

と言われたら、むしろアレ子はホッとするのではないかとすら思った。
子供がいないのだから、
アレ子は結婚からいつでも解き放たれるのではないか。
現にアレ子は、夫が家に帰らない日、
どこで寝泊まりしているのかもまったく気にすらしていない。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に二人で弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』(監督:戸田ひかる)は、2017年の第30回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞し、2018年全国上映で好評を博す。タレント弁護士として、テレビ番組へのコメンテーター出演やドラマ・映画の監修なども手掛ける。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・南和行のInstagram
https://www.instagram.com/minami_kazuyuki/

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