よみタイ

南和行「離婚さんいらっしゃい」

家族を守るためです。私はカルトじゃありません!

【弁護士とマテ子】

(弁護士)
はじめまして。私が、夫さんの代理人の弁護士です。
事務所の場所、すぐにわかりましたか?

(マテ子)
はい。ありがとうございます。
お手紙をいただいて、書面で返答となっていましたが、
私はお会いしてお伝えしたいと思ってうかがいました。

(弁護士)
さっそくですが、お送りした手紙のとおり、
夫さんは長女さんと二人で安定した生活をしており、
離婚をしたいという希望です。

(マテ子)
結論からいうと、離婚には応じません。

(弁護士)
でも、もう夫さんと長女さんが家を出て、
3年以上になりますし、今、マテ子さんは……。

(マテ子)
まず、間違いを訂正させてください。
夫と長女が一緒に家を出たのではなく、
夫が勝手に長女を連れて家を出たのです。

(弁護士)
ですが、今、マテ子さんは、ファームで暮らしていて、
夫さんが何度か迎えに行ったときも、
帰ることを断ったのですよね?

(マテ子)
それも間違いです。
ファームはシェルターです。
夫は私を危険な生活環境に連れ出そうとしたから、
私はそれが無理なことだと答えました。

(弁護士)
そういう経緯を踏まえて、
夫さんは離婚するしかないと、
お子さんの親権を譲って欲しいということで、
弁護士である私を間に入れた話し合いを依頼したのですが。

(マテ子)
先生には時間を作っていただいたことに、
感謝をしますが、私は長女のことが心配なので、
離婚はしません。
夫が長女に、
冷凍食品やスーパーで買った食材だけを
食べさせているなら、
それは虐待です。

(弁護士)
夫さんと生活している
長女さんは、健康について
全く問題ないとのことです。

(マテ子)
弁護士さんならわかると思いますが、
私は長女を汚染されている食品や衣類や環境から守るために、
いつか私たちのファームに連れて行きたいと思っています。

(弁護士)
でも、そちらのファームでは、
これまでも栄養失調や衛生上の問題があるとして、
信者の方が連れて行った子供たちが、
児童虐待で保護されたケースもあります。

(マテ子)
それらの事例は、
子供たちがファームに来るまでに、
悪質な汚染食品にさらされ続けていたことが原因です。

(弁護士)
偏った食生活や極端な薄着が虐待にあたることもありますよ。

(マテ子)
先生は事実を知らないのです。
ファームのことを敵視する人が、
ねつ造したのです。
それと、先ほど「信者」とおっしゃいましたが、
私たちのファームは共同生活をしているシェルターです。
宗教ではありません。

(弁護士)
そのほかマテ子さんのファームは、
カフェ経営についての不動産所有者とのトラブル、
食品販売についての消費者被害のトラブル、
裁判沙汰になっているのもありますね?
申し訳ないけど典型的なカルトだと理解しています。

(マテ子)
先生がそんなことを言うのがとても残念です。
ネットで調べたら先生は、
シックハウス症候群の方が原告の欠陥住宅の裁判もされていますよね?
化学物質の危険は同じなのに
なぜ私たちのファームのことは、
カルトだと決めつけるのですか?

(弁護士)
あのね、マテ子さん。
私は弁護士として、客観的事実や科学的裏付けがあることについて、
法律上の問題を解決するために弁護士として
欠陥住宅の裁判を引き受けているのですよ。

(マテ子)
先生が、今後、私たちのファームのことを、
カルトだと外に向けて発信されれば、それは名誉毀損です。

(弁護士)
マテ子さん。話を逸らさずに聞いてください。
今日、来てもらったのは、ファームのことではなく、
単純に夫さんからの離婚の要求について、
お返事を聞かせていただくということなのです。

(マテ子)
それは結論が出ています。
私は離婚しません。

(弁護士)
そうですか。

(マテ子)
私が離婚に応じないと裁判になるのですか?

(弁護士)
夫さんは、すぐに裁判と言ってません。
まず話し合いでというスタンスです。

(マテ子)
そうですか。

(弁護士)
夫さんから長女さんの写真を預かっていますが、
受け取っていただけますか?

(マテ子)
……ご配慮いただきありがとうございます。
受け取らないことで不利な情状と言われたくないので、
写真は受け取ります。

(弁護士)
あと、今、ずっとカバンの中の
ICレコーダーで録音していたようですけど、
ファームに帰ってから誰かに今日の会話を聞かせるのですか?

(マテ子)
対立関係にある夫の弁護士と丸腰で会うのですから、
証拠を残すための録音は当たり前です。

(弁護士)
マテ子さん、そういう話し方とかも含めて、
ちょっと落ち着いてみて下さい。
昔の頃、結婚した頃や、
長女さんを産んだ頃のことを思い出して、
そのときの気持ちをフワッと取り戻すことはできませんか?

(マテ子)
私が洗脳されているような誤解をしているのでしたら、
それは違います。
私は、今、自分の意思でお話をしています。
むしろ私は昔のほうが無理して作り笑顔をしていました。
夫と出会って結婚して、ずっと夫に気を遣っていました。
「笑顔がトレードマーク」と言われて、
特に流産後は、夫に気を遣って
作り笑顔をさせられていたような気分です。

(弁護士)
そうですか。
離婚はしないというマテ子さんの意思は、
夫さんに伝えますね。

1 2 3 4 5 6

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

週間ランキング 今読まれているホットな記事