よみタイ

南和行「離婚さんいらっしゃい」

私は平日だけの母親なのか

【弁護士とゼル子】

(弁護士)
お久しぶりですね。

(ゼル子)
その節はお世話になりました。
先生に、あのときの不倫の交際相手の奥さんとの、
示談をまとめてもらったところまでは良かったのですが、
けっきょく夫からは別居を言われて今にいたります。

(弁護士)
夫さんとしても、やりきれない気持ちだったのでしょうね。
でも、子供さんの負担にならないように、
お互いに丁寧に関わりを持つことが、
なかなかできないご夫婦もいますから、
ゼル子さんたちは、別居の優等生ですよ。

(ゼル子)
優等生のつもりでしたが、
夫からはやっぱり前倒しで離婚したい、
それに親権は欲しいと言われました。

(弁護士)
ゼル子さんとしては、
親権を渡すつもりはないのですよね?

(ゼル子)
はい。やっぱり離婚となってしまっても、
長男のことは大人になるまで、
自分が……という気持ちです。

(弁護士)
日本の法律では共同親権は、婚姻中のみで、
離婚のときは、必ずどちらか一方のみを、
親権者と決めなくてはいけません。
逆にそれが決まらなければ離婚できませんから。

(ゼル子)
親権者になれないと、長男とは一緒に暮らせないのですか?

(弁護士)
いや、そんなことはないですよ。
親権とざっくり言いますが、
その中身は、子供がすることへの代理権だったり、
子供の財産を管理する権限だったり、
親としての個別の役割です。

(ゼル子)
一緒に暮らすということは?

(弁護士)
一緒に暮らすということは、
子供さんの日々の生活を見守るという役割で、
「監護権」なんて言葉で表し、親権に含まれると考えられます。
そして裁判所で離婚調停をする場合など、
親権者が「監護権者」として、
子供を引き取り一緒に暮らすと決めることがほとんどです。
ごくたまに、「親権者」と「監護権者」を分けるなんてこともありますが。

(ゼル子)
細かく考えないといけないということはわかるのですが、
細かく考えることが嫌になりそうな。

(弁護士)
でもね、親権者というザックリした言葉で、
「どっちの子供」と無責任にまとめて結論を出すのではなく、
「子供さんに対するそれぞれの役割をどうするのか」、
離婚にあたって細かく細かく考えるプロセスを経ることが、
子供さんにとっても、
「親はしっかり考えてくれた」ということにもなり
子供さんが結論を受け容れやすくもなりますよ。

(ゼル子)
ただ、どうしても、
学校の面倒くさいことや、代わり映えのない平日の料理洗濯とか、
そういうことをほとんどしていない夫が、
長男が手のかからない年になったところで「自分が親権を欲しい」
と言ったことへの反発心とか、
夫に「できるはずがない」と、
ケンカしたいような気持ちになって。

(弁護士)
それは素直な気持ちだと思います。
子供さんも今もう中学生で、
ある程度、自分で自分の将来や、
自分の生活のことを考えられる年齢ですからね。

(ゼル子)
子供に決めさせるということですか?

(弁護士)
今の年齢だとそれはないと思います。
ただ、もしゼル子さんと夫さんが、
このまま親権者をどうするかでモメて、
家庭裁判所の調停になったら、
家庭裁判所の専門職である調査官が、
どちらが親権者にふさわしいかということについて、
長男さんとの面談もした上での意見を出します。

(ゼル子)
調査官?

(弁護士)
はい。親権者をどちらにするかなど、
法律だけで割り切れない問題について、
児童心理などの専門的知識のある、
調査官という専門の職員による調査をして、
裁判所は最終的な判断をするのです。

(ゼル子)
そうなると長男が調査官に面談で何を話すかが大切なのですか?

(弁護士)
子供さんとの面談だけでは決めません。
調査官はそれに先だって、両親双方とも面談をしますし、
家庭訪問などで生活環境も確認します。
そして子供さんが言葉として、
「こうしたい」と言ったとしても、
子供さんの言うとおりのことが、
子供さんにとって本当に良い結果なのか、
それはわからないので、
いろんな事情を踏まえて総合的な意見となります。

(ゼル子)
それは今、中学生だからですか?

(弁護士)
そうですね。子供さんがもっと小さければ、
逆に子供さんが面談で何か言ったとしても、
そんなことより両親それぞれの事情が重要になりますし、
また子供さんが高校生くらいにもなれば、
子供さんが「こうしたい」「こっちがいい」と、
言葉で言うことの重みは増しますが。

(ゼル子)
正直、私、そこは自信が少しないです。

(弁護士)
子供さんのことですか?

(ゼル子)
はい。私は、自分の長男との関わりが、
悪かったとは思わないですし、
長男が今、一緒にいても、
小さいときのようにキャッキャとはしゃがないのも、
年頃の男の子だしくらいに思います。

(弁護士)
男の子とお母さんですもんね。

(ゼル子)
でも、夫と長男がどんな様子か知らないぶん、
もしかして、夫は、私なんかよりもずっと、
長男とガッチリ結びついているのかなとか、
不安になるのです。
極端な話、長男は、今、
私と夫と、どちらかを親権者として、
どちらかとしか一緒に暮らせないとなったら、
「お父さんのほうがいい」と言わないか、
それが不安です。
長男が私を選ぶのかと自信を持てなくて。

(弁護士)
だから、そんな割り切った形で決めると考えるのが、
お互い良くないのです。
親権者がアッチだから、もう全部がアッチ、
みたいに考えてしまうから、
子供さんを「取る」か「捨てる」かみたいな、
イメージになってしまうんです。

(ゼル子)
でも……。

(弁護士)
最初に言ったように、
親権者をどちらにするかということだけを、
抽象的に話し合うのではなく、
子供さんの将来のことを二人で考えて、
どういう風にそれぞれ役割を果たすのか、
細かいことを積み重ねた上で、
最後に「それなら親権者はこっち」となるように、
話し合ってみてください。

1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

週間ランキング 今読まれているホットな記事