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南和行「離婚さんいらっしゃい」

私は平日だけの母親なのか

夫からの離婚の申し出

長男との二人暮らしは
夫がいるよりも気楽だった。

洗濯物の量も減り、作る食事の量も減った。

ちょっとした家事についても、
夫がいるときよりも気楽に、
長男に「手伝って」と言えるようになった。

長男も事情はボンヤリ把握しているようだったが、
夫とゼル子が決定的に破綻している様子ではなく、
週末の長男の送り迎えで顔を合わせれば夫婦で話をしていたり、
たまには三人で外食をしたり、
それを確認して安心しているようだった。

ゼル子は長男になるべく習い事や塾に通わせ、
夕方、長男が家でひとりで過ごすことが少ないようにした。

そして会社を定時であがれることが多い水曜日は、
長男と二人で出かけたり、家でオンデマンドの映画を見たりするようにした。

小学校も高学年になり、
小さい子供のように何でもかんでもピーチクパーチク、
親に話すことはなくなったが、
子供向けのアニメ映画を「ほぉっ」という顔で見入る長男の横顔に、
「まだまだ子供だな」と思い、
安心するような気持ちと、
赤ちゃん時代が懐かしいような気持ちと、
ときに感傷的になって涙が出ることもあった。

そうすると、長男は、
「なんで泣いているの? この映画、そんなに悲しくないよ」
と真顔で心配してきた。

そんな長男は、ゼル子との二人暮らしで、
小学校5年、小学校6年を過ごし、中学生になった。
中学校は地元の公立中学校に入った。

中学生になっても、
長男は週末を夫の家に泊まり夫と過ごした。

小学校の間は、夫の家に泊まる土日は、
概ねサッカーの練習や試合に費やされていたが、
地元のサッカーチームは小学校までで、
長男は中学校では部活でのサッカー部に入った。
ゼル子は長男が中学生になってから土日を夫とどう過ごしているのか、
知らなかった。

ただそれを、
あまり詮索すると夫との関わりに口を出すようだから、
ゼル子は意識して気にしないように努めた。

そしてその年の6月頃、
ゼル子は夫から「今年の夏、家族三人で沖縄に旅行しないか」
と誘われた。

ゼル子は、夫と一緒にということに、
少し抵抗があったが、
長男が大きくなればなるほど、
家族三人での遠出の機会も減るだろうと思い、
夫の提案に乗ることにした。

旅行の手配は全て夫がしてくれた。

もちろん、今さら夫とゼル子の間に何かあることもなく、
寝室が二つあるペンション型の宿泊施設で、
夫と長男の二人がひとつの寝室、
ゼル子が一人でもうひとつの寝室だった。

その旅行の最後に夫からゼル子に、
「離婚してほしい」ということ、
そして「長男の親権が欲しい」ということを言われた。

長男が成人するまでは、
離婚しないという約束を、
前倒ししたいと夫は言った。

ゼル子は、別居生活も2年が過ぎ、
この形での生活も落ち着いた中で、
そろそろ離婚したいという夫の気持ちは
そんなもんだろうと思った。

ただ、親権を欲しいと言われたことには戸惑った。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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