よみタイ

鈴木涼美「○○○な女~オンナはそれを我慢している」
よみタイでの大好評連載「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」(書籍好評発売中)を終えた鈴木涼美の次なるフェーズは、オンナ目線の女性論。ふと見渡せば、耳に目につく、いろんなタイプ・○○○な女たち。女の敵は女じゃないけど、ちょっとどうなの、それでいいの、な現代女性像を浮き彫りに。

愛情カツアゲ女〜雨の中の寸劇はできれば高校で済ませておいてほしい話

たいした人数ではないものの、私にも今まで一応彼氏彼女みたいな関係になった男というのが少なからずいて、別に全員が極悪人だったわけではないけど、かといって「嗚呼、別れなければきっと今頃幸せな未来が」と思っているかというと、そういった幸福のイメージが湧く男もほとんどおらず、総じて割とロクでもない。
で、ロクでもなさにも種類があって、暴力で解決チャンピオンとか、別れ際に本性爆発選手権とか、金に汚いワールドカップとなるとそれぞれそれなりの名前と顔が浮かぶのだけど、兎に角誰よりも面倒臭かった男、略してM-1グランプリとなるとやはり他の名だたる猛者を抑え込んで、バツグンに最初に名前が上がる男というのがいる。

別名「ワカレルワカレル詐欺」の男、アキオ

仮名アキオ、別の名をワカレルワカレル詐欺と呼ばれたその男は、その名の通り、口癖が「別れる」だった。
私の連絡がつかなければ「もう別れる」とメールを寄越し、私が夜遊びに行くのが気に入らなければ「別れたいの?」と詰め寄り、私が別の男と連絡をとれば「もうないわ、別れよう」と家を出て行く。
最初のうちは、驚いて急いで連絡を折り返したり、謝って約束事を増やしたり、出て行こうとする彼を引き止めたり、くらいのことはしてみるけど、「ははーん、こいつ本当は別れる気なんて全然ないな」と思ってからは私は「戻ってきて」とか「悪いところ直すね」なんて当然言わなくなる。

勿論そいつは別れる気なんてさらさらないので、私が追いかけてくれることを目論んでしばらく家の周辺をウロウロして、「荷物置いてあるのどうするか決める」とか「お前の意見聞くの忘れたから」とか何かしら理由をつけて自分から勝手に戻っては、なぜか別れ話はなかったことになっている。
ふざけて村人を驚かせる、なんて悪趣味なことをしていたせいで、最後の本当にピンチの時に誰も信じてくれず、狼に食われてしまう息子のように、彼も最後は別れる気もないのに別れるといって出て行ったまま、私に内鍵をかけられて、我が家の帰らぬ人となったわけです。

アラサー独身にも多い無自覚カツアゲ野郎
アラサー独身にも多い無自覚カツアゲ野郎

こういう人間を構成しているのは、

①「自分はこれが嫌だ」「自分はこうしてほしい」と伝えて現状を変えたり、自分の中で消化したりする能力の欠如
②要望を聞き入れてもらうために何かをチラつかせて脅すだけのヤクザ以下の交渉術
③人の愛情表現を無理やり引き出すカツアゲ根性
④自分の安心のために他の命を簡単に試験管にいれる動物実験的なエゴイズム
⑤自分の影響力を実感するために暴力や暴言で人の感情の揺れをみて楽しむDV気質

である。

要するに、彼は自分の気に入らないことをされて不満、かつ自分が軽視されている気がして不安なのであって、それらを解消するために、「ここを直して欲しい」「自分のことをちゃんと好きか知りたい」の代替語として「別れる」を使っていた。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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