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鈴木涼美「○○○な女~オンナはそれを我慢している」

SATC女〜男がミスチル聞く感じなのかも、って話

SATCはゼロ年代序盤に日本の、何か素敵な生活をしたいと思っている女子大生がヨダレを垂らして観ていた米ドラマで、4人のおばさんたちが高級靴を履いてスタバのカップを持ってマンハッタンをうろうろしつつ、クソ男と恋しながらさらにおばさんになっていく話である。

全員結構いい仕事を持っていて、全員男好き。

全体的な志向は「恋とセックスも楽しみたいし、仕事も充実していたい」だけど、四人いるので色々濃淡はあって女性蔑視への闘争精神に溢れたキャリア志向の2人と、どちらかというと男性への期待度が高い2人に分かれ、さらに結婚観や学歴などもきれいに分かれていて、視聴者はこの部分はこの人、この部分はこの人、と共感する対象を見つけて入れこめる、そして女同士の会話が極めて練られた、いい台本のドラマだ。

で、当時東洋の黄色い女たちも、影響されてマノロを買ったりスタバを持って打ち合わせに行ったり何故かコラムニストを目指したりコスモポリタンを飲んだりしていたのだけど、当然現実はドラマではないし、そもそも住んでいるのはマンハッタンのアッパーウエストではなく富士山の見える東京だし、そのうちそんなことは忘れて川越の親戚の法事に出たりお多幸でおでんたべながらアホみたいな上司の悪口を言ったりしてわりと忙しく生きている。

のだが、その憧れを変にこじらせた女っていうのが一定数いて、さらに当時女子大生とかだった世代がドラマの登場人物たちと同年代になって再視聴して前よりも強く感染している人もいて、結構今の30代40代にはいろんな意味で地雷コンテンツになっている。

変にいじると怒るし、年収300万円なのに「あーあマノロの靴って疲れないし、家で並べて見てるだけでうっとりしちゃう」とか言ったり、ホステスなのに「男って私たち女に仕事とられるの怖がってるわよね」とか言ったり、何かとSATC口調なのでそっとしておくのが吉である。

私がたまに仕事などで少し関わる女にも時々そういった特性が垣間見える女がいて、そういう人たちは結構高度なので、ジミーチュウがぁとかスタバがぁとか言わないのだけど、「普通のいい子」みたいなフレーズをよく使う。

そこらへんにいる普通の女を見下すことで完成するアイデンティファイ

実はこのドラマの一番のミソは、主人公たちの自己のアイデンティファイの仕方が、そこらへんにいる普通のつまらないバカ女を見下す、という形で完成していることでもある。

結婚志向が強い1人も、いわゆるその辺の主婦と一緒にしてジャッジしないで! というし、不倫に明け暮れていた1人も、私はいわゆる愛人じゃない、というし。
女の子も男の子も本当は誰しも特別で、普通とは違う存在でありたいけど、当然、そういった者の集合体が「普通」であるからして、大人になるにつれ、自分は凡庸な存在であると受け入れる。私も隣の奥さんも実は何も変わらないのだ、と。

でもやっぱり特別でありたいから、若干納得がいっていない。そういう普通の大人の女たちには、キャリアウーマンごっこをした後に平気で専業主婦になるようなパンピーをバカにして、荒々しい生き方をしていないラルフローレンで働く若い女をバカにして、世の中をシンプルガールズたちと「自分たちみたいな」女の2つに勝手に分けるようなこのドラマのスタンスは、それはそれはツボをついてくる。

「一緒にしないで!」みたいなことは誰しもが思っているけど、それを堂々と口にするには大人は善人すぎるし、せいぜい元カレの結婚相手を、何にも知らないキャリアも学歴もない可愛子ちゃん、と隔てるくらいしかできないから。

なんとなくキャリア志向が強いとかオシャレが好きとかいうイメージが強いが、実際は上記のように4人の中でかなり生き方はそれぞれバラバラだから実はそうそう一分類にはできなくて、見いだせる唯一の法則性は、みんなが「one of those women」ではない、と臆面なく言っているところで、それって昔ワンギャルが「その他大勢で終わる女じゃない」というブラックジョークにしか聞こえない歌を歌っていたのとほぼ同じ思想でもある。

というわけでセリーヌおばさんが、私はSATCが好きだけどいわゆるその辺のSATC女じゃない、と熱弁するのは、SATC女として大変模範的な反応であって面白かった。
ちなみに私はしつこいし暇なので熱弁ぽい会話が終わってもその2人の会話を聞いていたんだけど、彼女は今度は、「うちの会社に入ってくるような女はいわゆる上昇志向が高いタイプが多くてミーハー」ということに怒っていた。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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