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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は比較的よく見る落とし物のひとつ、ハケを発見し、そこから幻想的な世界を想像した著者。

今回は、見事に立ったクラフトテープを発見! どうしても清水アキラさん以外が思い浮かばなかったようで――

清水アキラにセロハンテープ以外のテープの落とし主になる可能性がある理由

引っ越しならセロテープよりクラフトテープや布テープを選ぶかもしれない

都内で発見したクラフトテープの落とし物。どうして立っているのか、以上の物語がある。(写真/ダーシマ)
都内で発見したクラフトテープの落とし物。どうして立っているのか、以上の物語がある。(写真/ダーシマ)

夜道。クラフトテープがあった。

絶妙な形、そして絶妙なバランスで静止しており、まるで意図的に置かれているようでもあり、どこか幻想的ですらあった。
もしも道にセロハンテープが落ちていたなら、それは清水アキラさんの落とし物の可能性が高い。清水アキラさんといえば誰もが知っている「セロテープ芸」で有名だからだ(※セロテープはニチバンの登録商標)。

しかしここにあるのはクラフトテープ。となると清水アキラさんの落とし物ではない。
とは限らない。

たしかに清水アキラさんのモノマネにクラフトテープは似合わない。顔に貼るとセロテープと違って主張が激しくなってしまい、観客はどうしてもクラフトテープを見てしまってモノマネに集中できなくなる。

とはいえ、清水アキラさんといえどもセロテープよりクラフトテープを選ぶ時がある。

たとえば清水アキラさんが引っ越す時。段ボール箱の梱包にセロテープではあまりにも心許ない。断然クラフトテープの方が良いのだからそれを選ぶ。ただし、布テープがあるなら清水アキラさんはそちらを選ぶかもしれない。布テープはクラフトテープより粘着力があり、しかも重ね貼りができるから、引っ越し時にはより役に立つからだ。

また清水アキラさんが服についた埃を手っ取り早く取りたい時はどうだろう。こちらもセロテープよりもクラフトテープの粘着力と幅を利用した方が早い。

もしも台風対策で窓ガラスに貼るのなら、セロテープでもなくクラフトテープでも布テープでもない別のテープの出番だ。それは養生テープである。養生テープは剥がしやすく、手で切れるという特性を持っているので様々な用途で使用できる。引っ越しの梱包には向かないが、引っ越しの荷物を保護する時などに使える。

電気の絶縁処理時はビニールテープが良い。船の見送り時には紙テープだ。清水アキラさんがスケジュール帳の装飾やプレゼントのラッピングをする時はマスキングテープだ。

このようにセロハンテープで有名な清水アキラさんも、用途に合わせて別のテープを使う。そのため、清水アキラさんはクラフトテープの落とし主になる可能性も布テープの落とし主になる可能性も、養生テープ、ビニールテープ、紙テープ、マスキングテープの落とし主にもなる可能性もあるのだ。

そういえば昔何かのインタビューで清水アキラさんが「針金芸をやろうと思った」みたいなことを言っていた。しかし痛くて断念したらしい。もしも針金が落ちていたら、それは断念した清水アキラさんが捨てたものだ。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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