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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は、よ〜く見るとある場所を隠している「営業中プレート」から、その理由を妄想した著者。
今回は、ふつうに考えるとありえない組み合わせの落とし物を発見したようで――

アタッシュケース+物干し竿=『どうぶつの森』?

都内で発見したアタッシュケースと物干し竿の落とし物。(写真/ダーシマ)
都内で発見したアタッシュケースと物干し竿の落とし物。(写真/ダーシマ)

柴田理恵と涙、水道トラブルと森末慎二に違和感はない  

たとえば所ジョージさんとMA-1。この組み合わせはしっくりくる。実にお似合いだ。所さんとスカジャン。こちらもしっくりくる。坊屋春道とスカジャンくらいしっくりくる。所さんと革ジャンはどうだろう。これもまたしっくりくる。武装戦線と革ジャンの組み合わせに負けるとも劣らないほどだ。
 
所さんから離れよう。実家のトイレと壁に貼られた世界地図。この組み合わせもしっくりくる。実家のトイレと地元の信用金庫のカレンダーも然りだ。
 
郊外のツタヤと重低音が聞こえる車の組み合わせもなんら問題ない。中華料理店とベタベタする雑誌の組み合わせも、柴田理恵と涙も、水道トラブルと森末慎二も、軽自動車の後部座席の後ろにある日焼けしたぬいぐるみ、あるいは『るるぶ』も違和感がない。
 
しかし、今回道にあったものは意外な組み合わせだった。アタッシュケース、そして物干し竿。なぜこの二つが一緒にあるのだろう。
 
アタッシュケースと物干し竿。どこか文学的で小説のタイトルのようであるが、この二つがなぜここにあるのかを考えた場合まず頭に浮かぶのはゲーム『どうぶつの森』である。入手した家具などのアイテムを後から整理しようと思ってとりあえず外に置いてある状態だ。これなら両者に関係性がなくても不思議ではない。ただここはゲームの世界ではない。別の理由を考えよう。

アタッシュケースに何か大事なものが入っていて(城南電機の宮路社長ならは多額の現金など)、それを持ち歩いていた時に誰かに襲われた場合に備えての物干し竿。つまりアタッシュケースを守るための武器としての物干し竿なのかもしれない。そう考えたならばこの二つが一緒にあっても不思議ではない。ただ、物干し竿はある程度の長さがあるために小回りが効かなそうで、武器としての用途には疑問が残る。もしかしたら映画『キングスマン』に出てくる道具のように一見、物干し竿に見えて実はもっと殺傷能力の高い武器に変形するのかもしれない。映画ではたしかアタッシュケースも武器だったはずだ。ということは二つとも武器だ。だとしてもこんなところに置きっぱなしにしない。

アタッシュケースの中は大事なもの(城南電機の宮路社長ならは多額の現金など)ではなく、洗濯物だと考えたらどうだろう。そうすると物干し竿があっても不思議ではない。しかしアタッシュケースに入れるというところが引っかかる。洗濯物を入れて持ち歩くならせめてIKEAの袋であるべきだ。
 
ここが密室ならば、アタッシュケースと物干し竿を使って脱出する方法を考えたり、謎解きをしたり、デスゲーム的なことに巻き込まれたり、なんてことも考えられるがここは路上だ。

いろいろと考えても答えは出ない。仕方ないので「これはオブジェ」と思い込んで、私は自分を納得させた。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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