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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は、スターバックスのカップを発見し、どんなメッセージが書かれているのか、を考えた著者。今回は、落とし物界のトップランナー「買い物メモ」を発見したようで――

沢口靖子の「リッツパーティー」みたいな「印かんパーティ」がこの世にはある!?

都内の路上で発見した買い物メモ。一読すると、統一感がないものが揃っている気が……。(写真/ダーシマ)
都内の路上で発見した買い物メモ。一読すると、統一感がないものが揃っている気が……。(写真/ダーシマ)

メモに書かれた7つのアイテムから予想する、落とし主の目的とは?

道には様々なものが落ちているもので、もっとも目にするのは手袋の類である。それより頻度は落ちるが、わりと見かけるのが『買い物メモ』だ。文字通り、買うものをメモしたものである。

それはなんてことない小さい紙切れであるのだが、子どもの頃にこれを落としたら絶望しかない。私もおつかいの時に落としたことがあるからわかる。

書かれている品物のいくつかは覚えていたとしても、細かいことはわからない。子どもにとって片栗粉だとか鶏の胸肉だとか絹ごし豆腐なんて未知の言葉であり、粉と肉と豆腐としての認識しかない。合い挽きを300グラムなんて絶対にわかるわけがないのだ。だからメモを落としたことに気づき呆然と立ち尽くすしかない。何も買わずに帰ったら怒られるのではないかとかメモを落としたことを怒られるのではないかなどと不安になって(実際は怒られることなどないのだが)、泣くのをなんとか我慢して歩いたものだ。

などと子どもの頃を思い出しながらも、記憶力が低下してきた最近もまたメモを落とすと途方に暮れるようになった。まあ、スマホにメモするなり、電話して聞くことができるから昔よりはまだましではあるが。とにかくこのメモを落とした人が困っていなければ良いなあといつも思うのだ。

次に考えるのは「メモの落とし主は何を作ろうとしていたのか?」の推理である。メモに書かれた食材から作る予定の料理を導くというわけだ。もしくは落とし主の状況を考えることもある。メモから「もしかしたら引っ越しするのはないか」とか「大掃除かな」「これは旅行の準備かも」などと勝手に想像するのだ。

この日見つけたメモに書かれていたのは、『ペーパー』、『小皿』、『ピンチ』、『おはし』、『よるごはん』、『お花』、『印かん』の7つである(表記はメモのまま)。

このラインナップを見た時、真っ先に思い浮かんだのがパーティだ。小皿と箸が必要なのは来客があるからであり、ペーパーとピンチは飾り付けに使うに違いない。お花もそうだろう。よるごはんというのはざっくりしているが、パーティ用の料理のことか、あるいはパーティは昼間開催されてその後の自分用のよるごはんだろう。

問題となるのが印かんだ。印かんが必要なパーティなんてあるのだろうか。私が知らないだけで存在するかもしれない。その名も印かんパーティ。沢口靖子のリッツパーティーみたいなものである。印かんが好きな人の集いであり、印かんのオフ会ともいえよう。  

パーティには新しい服で行きたいように、印かんだって新しくしたいもの。つまり落とし主はパーティ用の印かんを新たに作ろうと注文していて、完成したものを受け取りに行くということなのだ。これでメモの解析は終わった。

ふと「パーティ用の印かん? なんだそれ」と自分で考えておいて疑問に思ったが、まあすぐに忘れるだろう。

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新刊紹介

せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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