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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、カンロ飴の落とし物から少年時代を思い出した切ない物語でしたが、今回は、七夕のあとに落ちていた不思議な願いごとが書かれた短冊について。 

「小林尊に会いたい」と願う短冊の落とし物は、どう処理するのが正解なのか?

都内の路上にて発見。しかしなぜ、あまたいる著名人の中で彼なのか?(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見。しかしなぜ、あまたいる著名人の中で彼なのか?(写真/ダーシマ)

叶う気がまったくしない、七夕の短冊の落とし物を発見!

私は北海道から上京するまで七夕の思い出がない。七夕で盛り上がっていた記憶がないのだ。土地柄なのか。あるいは私が七夕にまったく興味がなかっただけなのかもしれない。いずれにせよ短冊を書いた記憶すらない。

最近、「北海道の七夕ってロウソクを貰いに行くんですよね?」と言われることがあるのだが、実はそれも知らなかった。どうやら近所の家々を回ってロウソクを貰うというハロウィンに似たものらしい。私が住んでいた地域ではその風習はなかった。

上京し、七夕というイベントを感じるようになった。七夕が近づけば駅やスーパーや商店街に短冊があふれていて、書かれている願い事を見て時間を潰すこともあった。特に子どもの願い事は飽きることはなかった。

私は七夕について無知であったから、七夕が終わった後、願い事が書かれた短冊はどうなっているのか知らなかった。どうするのが一番良いのかも知らない。だからと言って調べることなど30年以上なかったのだが、この日私は初めて調べることになる。なぜなら一枚の短冊が落ちていたからである。

『小林尊に会いたい』

そう書かれたピンク色の短冊。その鮮やかな色となかなか目にすることのなさそうなレアな願い事に私は足を止めた。七夕は数日前に終わっている。他の短冊はもうない。ということは道に落ちたまま数日経っていることになる。

いわばこの短冊は予選落ちしたようなものだろう。もはや願いが叶う気がまったくしない。見ているとどこか陽気で無邪気な願い事も相まって悲哀さだけが増大していくだけだ。

しかし敗者復活の道もなくはない。今からでも他の短冊と同じ状態にすれば良いのだ。すると再び同じ土俵に上がることになり、願い事が叶う可能性が出てくる気がする。しかし他の短冊はどう処理されたのかがわからなければ始まらない。そこで私は七夕後の短冊について調べたのだ。

小林尊の短冊を処理するには、火と水、どちらが正解なのか?

ふたつの方法があった。ひとつ目は「燃やす」というものだ。神社でのお焚き上げもこれに含まれる。もうひとつは「川に流す」というもの。昔はそうしていたらしい。今ごろ他の短冊はどちらかの状態にあると考えられる。

この短冊にはどちらの方法が良いだろうか。神社に持って行かなくても燃やすことは可能だ。大量にあるわけではく、一枚しかないのだから自分で燃やしても危険なことはないだろう。一方、川に流す方法は環境への配慮により禁止になっているところも多いらしい。

ならば燃やす一択か。パンを焼く。野菜やソーセージを炒める。あるいは茹でる。ホットドックを作る過程で火は必要不可欠である。小林尊関連の願いを叶えるならホットドックに関係した方法が良さそうだ。

ところが私はあることを思い出す。小林尊は試合に向けて水を飲んで胃を大きくしていくということを。そう、彼の大食いには水が必要不可欠なのだ。ならば水に関係する方がこの願いが叶う気もする。環境に配慮した方法さえ見つかればこっちの方が良いかもしれない。

火か水か。ポケモンなら水の方が強いが短冊ではどちらなのか……?

ここでさらに私は別の情報を思い出す。小林尊はホットドックを食べる時に、パンをお湯に浸すということを。お湯を作るには火と水がいる。つまりどちらの方法も必要となる。

ならば二つの方法を合わせれば良い。まず短冊を燃やし、その灰を川に流す。これなら火も水も使う。短冊一枚分の灰ならば環境的にも問題ない。これで決定だ。

ところでそれを私がやるのか?

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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