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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は、落とし物というより、ただ倒れているだけ?とも思わせる伏せられたスタンド看板を発見したよう著者。今回は、少年時代にハマった、プロ野球チップスでも、ビックリマンでもないない、あるカードを発見したようで――

スマホの保護フィルムに空気が入ってしまった時、貼る前に時間を戻せる超能力が欲しくなった落とし物

都内の中央線高架下の路上にて発見したESPカード。正直、この落とし物を発見するのが超能力、とも言えるような……。(写真/ダーシマ)(写真/ダーシマ)
都内の中央線高架下の路上にて発見したESPカード。正直、この落とし物を発見するのが超能力、とも言えるような……。(写真/ダーシマ)(写真/ダーシマ)

このカードがあれば、眠っている能力が目覚めるかもしれない

私はこのカードを見たことがある。

ESPカード(ゼナーカード)と呼ばれているものだ。5種類の記号(星、波、円、四角、十字)が描かれたカードで、超能力実験に使うものである。

私が子供の頃、心霊とか超常現象とかがブームで、私もその手の本を読みあさり、番組があれば欠かさず見ていた。当時の私を取り巻く世界は心霊写真、UFO、こっくりさん、予言などで構成されていたのだ。超能力もそのひとつで、スプーンや壊れた時計を手に、ワクワクしながらテレビの前に座っていた記憶がある。

その頃に知ったのがこのカードだ。欲しかったが田舎に売っているわけがなく、友人が作ったもので代用したものだ。

あれから久しく「不思議なもの」から遠かったが、まさか中央線の高架下で再会するとは思ってもいなかった。

このカードがここに落ちているということは、この辺りに何かしらの能力を持っている人物がいる、あるいは訓練している人物がいるということだろう。

私は辺りを見渡したが誰もいない。もしかしたら脳に直接語りかけてくるかもしれない。

「それは私が落としたカードです」と。もちろんそんなことはない。

試しにこのカードで実験したならば、私の中に眠っている能力が目覚めるかもしれない。そんなことをふと考えた。

私が一番欲しい能力はなんだろう?

洋服店で服を選んでいる時に店員が近づいて来ないようにできる能力か?
店でオーダーしたい時に小さな声でも店員が呼べる能力だろうか?
どれが自分のビニール傘か一発でわかる能力だろうか?
大浴場でどれが自分のスリッパか一発でわかる能力だろうか?
今何を検索しようとしていたのかがすぐにわかる能力だろうか?
スーパーでレジがいくつかあって、それぞれ同じくらいの人数が並んでいる時、どこが一番早いのかわかる能力か?

どれも欲しい能力だが、地味過ぎる。人に言えない。

そうだ、時間を戻せる能力はどうだろうか?

スマホの液晶画面に保護フィルムを貼ろうとしたら空気が入ってしまった時に貼る前に時間を戻せる能力、カップラーメンを食べ終わった後にまだ入れてない調味料があることに気づいた時に時間を戻す能力、フリスクがいっぱい出てきちゃった時に戻す能力、割り箸がうまく割れなかった時に戻す能力……。

私はいろいろ考えた末、新しい店が出来ていて「あれ?ここって前はなんだっけ?」と思い出せない時にすぐにわかる能力にすることにした。「ここって前はなんだっけ?」と思うや否や「磯丸水産」「ドトール」「iPhoneの修理屋さん」などとすぐにわかるのだ。

これで思い出せなくて、しかも調べようもなく、悶々とする時間から解放される。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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