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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は、お守りの落とし物から、なぜか社交ダンスと車?に思いをめぐらせた著者。今回は、落とし物の定番のようで、実はあまり見かけないバナナを発見したようで――

コントや漫画でのマストアイテム「落ちているバナナ」を発見したとき、本当に考えることとは!?

都内の路上にて発見したバナナ。遠足のおやつには入らないと先生に言われたのだろうか?(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見したバナナ。遠足のおやつには入らないと先生に言われたのだろうか?(写真/ダーシマ)

北海道出身の私にとってもっとも古い記憶は「凍ったバナナで釘を打つ」!?

道にバナナが落ちていた。しかも状態の良いものだ。
道に何か落ちていたならば、なぜ落ちているのかを考える。今回も例外ではない。

私のバナナに関する記憶で最も古いのものは何だろう。

アントニオ猪木だろうか。猪木一家がブラジルに渡る途中、猪木の祖父が青いバナナを食べて亡くなってしまう話だ。小中学生の頃にプロレスが流行っていて、プロレスに関する本を片っ端から読んだ時にこの記述があった。たしか漫画だった気がするがそこは定かではないが、バナナと言われると真っ先に思い出すのはこれなのだ。

学校に関するあるあるで遠足前に「バナナはおやつに入りますか?」と子どもが先生に聞くというものがある。私はこのセリフを言ったこともなければ、聞いたこともない。それでも知っているということは、雑誌の投稿ページで見たのか、ラジオ番組のコーナーあたりで聞いたのだろう。いずれにせよ、ネタとして記憶したバナナの話だ。

バナナで釘を打つというCMもあった。これは小学生の時だ。凍ったバナナで釘を打つという内容だった。北海道出身だと言うと「バナナで釘を打ってました?」と訊かれることがよくあり、最初は否定していたものの、いつしか面倒になって「はい」と言うようになった。

チンパンジーが天井から吊るしたバナナを、台と棒を使って取るという実験を知ったのはいつだっただろうか。こちらは高校生だったかもしれない。パブロフの犬くらいメジャーなものだった覚えがある。

バナナと言えば『MOGITATE!バナナ大使』という山田邦子の番組もあった。イニシャルトークというコーナーがあって、芸能界の裏話などを誰だか特定されないようにイニシャルで話すのだが、それまでイニシャルといえば「名前・苗字」の順番であったのに、このコーナーでは「苗字・名前」の順番で戸惑ったことを覚えている。別のテレビ番組で「マジカルバナナ」というゲームもあった。これらの番組が放送されていた頃、私はもう高校を卒業していた。

これらの記憶を時系列順で並び替えてみると、最も古いのは「凍ったバナナで釘を打つ」ということがわかった。

次に私の記憶と目の前のバナナを照らし合わせてみる。するとそこにバナナが落ちている理由が見えてくるかもしれない。

まずここは船上ではないので猪木の線は消える。バナナ大使とマジカルバナナは本物のバナナとの関係性は薄いのでこれらも消える。

そうなると三つに絞られる。

バナナはおやつに入らないと思っていたのに「入る」と言われた子どもが慌ててここに隠したから。
あるいは実際に凍ったバナナで釘を打ってみた形跡。
もしくはチンパンジーの実験の形跡。

このうちのどれかだと考えても誰も困らない。想像は自由なのだ。

ただし、これが皮だけだったら話は変わってくる。

都内の路上にて発見したバナナ(皮だけ)。これはツルっといっちゃうので注意が必要だ。(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見したバナナ(皮だけ)。これはツルっといっちゃうので注意が必要だ。(写真/ダーシマ)

これは、誰かが転ばせようとイタズラで置いたのか、マリオカートで投げられたものかのどちらかだ。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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