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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、あの世界的フードファイターに会いたいと願う短冊の落とし物を発見した著者。今回は令和の1回目にふさわしく?平成に大流行した携帯電話のストラップの落とし物についての物語――

平成時代の落とし物? ベッキーのもの(かもしれない)ケータイストラップ

都内の路上にて発見。ベッキーのものだとしたら、この数倍はあるので、落としたことに気づかないままかもしれない。(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見。ベッキーのものだとしたら、この数倍はあるので、落としたことに気づかないままかもしれない。(写真/ダーシマ)

ストラップが落ちていた。ベッキーのものに違いない。

ストラップを見るとベッキーを思い出す、私はそんな世代だ。スイカを見ると志村けんを思い出したり、カイワレをみると菅直人を思い出したり、成人式を見ると吉村作治を思い出したり、サッカーの審判を見ると三井ゆりを思い出す世代というのもあるだろう。ちなみに私はそのすべてに当てはまる。

もちろんベッキーのストラップを知らない世代というものも存在する。もしかしたらそれは携帯電話にストラップを付けることさえも知らない世代なのかもしれない。

ベッキーは携帯電話(いわゆるガラケー)に大量のストラップを付けていた。それを知らない人は頭の中で多くのストラップを想像するだろうが、実際にはその数倍はあると思って構わない。

それほど大量であるからベッキーが歩くとストラップ同士の衝突音が生じる。そのためベッキーが近づいてくるとすぐにわかった。どんなに忍び足で歩いても無駄で、後ろから近づいて「だーれだ?」と両手で目隠しをする戯れもすぐにばれてしまった。敵のアジトに忍びこんだり、野生動物を観察したりするのも難しかった。ベッキーが最も苦手としていたのはかくれんぼである。どんなに上手に隠れてもストラップが出てしまうので見つかってしまうからだ。

また、あれだけの量だから重さもあったはずだ。正確な数字はわからないが、飛行機に乗る際は機内に持ち込めなかったとか、ゆうパックでは送れなかったなどと言われていたが、ストラップを外すとベッキーのスピードはかなりアップするとも言われていたので、かなりの重さだったのかもしれない。ストラップを外すベッキーに目を奪われた次の瞬間、ベッキーが背後に移動していた、なんてこともあったらしい。このためベッキーの大量のストラップは重さで身体を鍛えるためにあるのではないかと言われたこともあったがそうではない。

ではなぜそこまでストラップをつけるのかというと、それは好きだからという理由に他ならず、「無人島にひとつだけ持っていけるとしたら?」の問いにベッキーはもちろん「ストラップ」と即答するし、砂漠で遭難した際に見る蜃気楼は水ではなくストラップであるはずだ。

たとえば乗っているボートが沈みそうになり、できるだけ軽くしなければいけない時でもストラップを捨てることはないだろう。そこまで好きならば子どもの名前を「ストラップ」にするのではないかと思うだろうが、ベッキーは聡明であるから、キラキラした名前を付けることはない。たとえ付けたとしても「根付」くらいだろうか。時折ベッキーがストラップに意地悪する時があるが、それもまた好きだからである。

などと、ストラップを見ながら私は嘘を考えまくった。いつしか私の頭の中はストラップでいっぱいになった。

このままでは「平成で最も記憶に残っていることは?」と訊かれたら「ベッキーのストラップ」と即答してしまう。

別にそれで構わないか。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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