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和牛に魅せられ北の地までも【岩手遠征・肉紀行】

驚いたのが、メニュー上では並ロース的なポジションに甘んじていた牛ロース。
日によって部位が変わるかもしれないが、しっとりとした柔らかさに、肉本来の旨味が閉じ込められている。
その他にはハツにレバ、コブクロをオーダーし、最後に牛ロースをお代わりした。

北の地で確固たる地位を築いた孤高の焼肉店と言える。

ちなみに今回は事前に岩手出身の某有名焼肉店店主に入念なリサーチを行っていたのが功を奏した。

どの世界でも言えることかもしれないが、焼肉の世界であっても、情報を制する者こそが、その日の焼肉を制するのだ。

肉バカ人生の貴重な財産となる体験の数々

翌日は午前中から講演会。
実は今回の岩手遠征の本来の目的はここにある。

JAの方からご依頼を受けて、生産者の方々に消費者代表として話をさせていただいた。
牛肉への感謝や愛情、そして牛肉を愛するがゆえの生産者へのお願いなど、好き勝手に色々と話をさせていただき、あっという間に時間が過ぎてしまった。

その後の懇親会はもちろん牛肉。
生産者の生の声をたくさん聞ける機会は稀で、これからの肉バカ人生の貴重な財産となったといえる。

最後は今回の岩手遠征で最も楽しみにしていた佐々木譲さんの牧場見学へ。

神戸ビーフや特産松阪牛といった但馬血統に傾倒していった時期に、岩手の黒毛和牛で、但馬血統でもないにもかかわらず、驚くほど味わい高く、香りが良い牛肉を食べたことがあった。

それが佐々木譲さんの牛肉を初めて食べた瞬間でもある。
それ以来、何度も譲さんの牛肉を食べているが、とにかく抜群に美味しいのだ。

東北の牛舎に入るのは初めてだが、関西圏の牛舎と違うのは、まず寒さ対策。
完全に密閉されているわけではないが、冷たい風や雪が入りにくいように牛舎の周りが壁や窓でしっかりと囲まれている。
牛達の鼻息は白く、そこから生命力の強さを感じてしまう。

導入したての子牛から出荷間近の成熟した牛までいるが、どの牛もリラックスしていて、ストレスなく育っているのがよく分かる。
飼料を覗き込むと、一般的によく見かける乾燥したコーンが少ししか入っていない。
コーンの代わりに多く入っているのは大豆で、これが譲さんの肥育する和牛の脂質の秘密の1つと言える。

譲さんの牛肉は、サシが入っている部位でも、見た目と食べた時のギャップが激しい。
口の中に残る脂の重たさが全くなく、赤身の味わいを主役とし、脂はあくまで脇役に徹する。

決して自己主張しない脂なのだ。

だからこそ、赤身の味の濃さが際立ち、より旨味が強く感じられる。

牛舎で一際目を引く牛がいた。
兵庫県から導入した但馬牛だ。

もともと譲さんの牛舎にいるのは但馬牛でなくても、但馬の血の濃い血統の牛が多い。
その中に3頭だけ純血の但馬牛がじっくりと肥育されているではないか……!

2019年の元旦には、前年末に譲さんが出荷した但馬牛を食べたが、食べ比べをした他の牛肉と比べても抜きんでた美味しさだった。
あの感動的な美味しさの予備軍があと3頭もいたとは……。

絶対に食べたい!
というか、絶対に食べる。

出荷のタイミングからセリ落とす仲卸、そして購入する飲食店まで、ストーカーのように追いかけて、何としてでも味わってみたい。

滞在時間は24時間に満たなく、慌ただしい肉遠征だったが、充実した内容に満足度はとても高い。

全国の産地をくまなく訪れるまで、肉バカの肉遠征はまだまだ続く。

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小池克臣

こいけ・かつおみ●1976年、神奈川県横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、さらには和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける肉の求道者。著書に『No Meat,No Life.を実践する男が語る和牛の至福 肉バカ。』がある。
公式ブログ「No Meat, No Life.」→ http://d.hatena.ne.jp/BMS12/

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