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調停を申立! 【逃げる技術!第21回】話の通じる相手じゃなかった

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穏やかな奥さんか、うるさい妻か

とにかく、夫が謝罪したり反省したりということはありませんでした。
わたしが反論するので、夫の弁護士は目を丸く見開いて「いやぁ奥さん。旦那さんからはおとなしくて、穏やかな優しい人だって聞いていたんですけども。結構あなた、いいますねぇ!」といいました。

声が震えるのをこらえながら「あたりまえじゃないですか! ちょっとでもいいかえすとひどい目にあうから何もいえなかっただけです。それでずっとやってきて、ついに子どもが叩かれて、本当にどうしようもなくなって家を出て、第三者の力を借りるしかないと思って弁護士さんにお願いしたんですよ! いまこの場には他人がいてくれるからこうやって初めて喋れているんです」と話した気がします。

面談は、しょうもなく、そして長い長い時間に感じました。

夫は「ケンカひとつしたことのない穏やかな仲良し夫婦である」「やり直せるはずだ」「妻はもともと精神的に不安定な人間で、自分は一生懸命に支えてきたつもりだ。サポートが足りず妻は出奔するに至ったのかもしれない。残念だ。これまで以上に支えたい」と弁護士に説明していたようです(ちなみにDV加害者の「相手を支えたい」とは「管理したい」に近い意味です)。

このように、問題が露見したときに「配偶者の精神的不安定さ」を強調するDV・モラハラの加害者は、少なくないようです。

そして調停へ

最初に家を出たのは2022年11月末。こちらから出した当初の書面では、別居の申し出に応じてもらえるなら離婚調停を起こすつもりもない、と伝えてありました。しかし、会って話し合いのできる相手ではないということがわかり、年末に申し立てを行いました。

Tips 82
家事調停は自分で起こすこともできますが、弁護士に依頼するケースが過半数です。ひとくちに「離婚調停」といっても状況に応じてさまざまな種類があります。わたしは弁護士のアドバイスで以下の3つを申立しました。代理人の弁護士が家庭裁判所に書類を提出します。
・夫婦関係調整調停(離婚するかどうかについて)
・婚姻費用の分担請求調停(別居中の生活費の負担割合について)
・面会交流調停(相手が子どもとどのように会うかについて)

何十件もの離婚弁護を経験してきたわたしの弁護士は、この面談を経て、「うーん。藤井さんのケースは思ったよりもややこしいかもしれませんね……」といいました。

ところが内心、わたしはこの時点でも、そのうち夫の心変わりを期待していました。アホかといわれてしまいそうですが、そうです、アホなのです。

夫への期待は、ここまでの2年近い時間とともに減衰してはきていますが、結構しつこく、完全に消え去ることはなかなかありません。亡霊のようにときどきふっと現れます。

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ファミレスで感じる孤独

特に、ロイヤルホストでカレーライスを食べているときにそれを感じます。あーあ、わたしはファミレスに一緒にくるくらいの関係性は続けましょう、と提案したつもりだったのに、それすらも、わたしに頭を下げるくらいならしたくないんだなぁ、と痛感させられるからです。

ファミレスのファミは、ファミリーのファミ。いろんなファミリーを横目で見ながら、もう1杯、ドリンクバーでカフェラテを取ってきて飲みます。

運動会や文化祭、授業参観などの学校行事のときにも感じます。

ああ、どこのおうちも(といっても実は家庭のかたちってさまざまなはずですが、自分に不全感があるために、そう感じてしまうのです)お父さんがきているのに、荷物を持ったり、写真を撮ったり、小さな子の手を引いたりしているのに、うちの夫は、そういうことすらしたくないんだな、わたしに頭を下げるくらいならしたくないのか、ああ、そもそも興味がないのかな、とむなしさを感じます。

わたしたちって愛されていないのだなぁ、と改めて感じます。
家出をして以降、夫からは「愛している」「君を守りたい」というドラマチックな言葉の踊るLINEやメールは散々きたのですが、彼の思う「愛」とは、ファミレスでのんびりごはんを食べるとか、授業参観を見守るとか、ただ送り迎えをするとか、そういうふれあいや心の通いあいを指さないのでしょう。

彼のいう「愛」とは、相手を手元に置いて、思い通りに動かすこと。
彼のいう「守る」とは、管理することなのです。
うっかり愛の定義が異なる相手と、わたしは結婚してしまったのでした。

子どもたちのほうがつきあいが短い分だけ(わたしは夫と15年以上、子どもたちはそれぞれ8年と5年)ドライなようですが、それでも時折、唐突に
「はー。○○(夫の名前)がある日突然いい人になったらいいのに」
とため息をつきます。同感です。

さて、次回は、離婚調停のときに家庭裁判所では何を行うのか、について書きます。

当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は9月2日(月)公開予定です。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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