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なぜ別居が必要?【逃げる技術!第18回】児相が介入するとどうなる

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児童相談所の「出頭・調査・家庭訪問」とは?

さて、児童相談所の調査というのは、1対1で職員が家族全員から話を聞く、というものでした。

そもそもわたしが相談にいった先は、自治体の福祉課です。子どもが関連する事案であるということで、福祉課は同じ自治体の子ども家庭支援センターへと情報を共有しました。そして事態を重く受け止めた支援センターが、東京都の児童相談所に通報したのです。

児童相談所からは「出頭」といって「いつ・どこへ・きてください」と電話で命じられ、「調査」ということで話を聞かれました。おそらくそれを拒否していたら、家庭訪問に来られたのだろうと思います(出頭と家庭訪問の順序が逆のこともあるようです)。

児相の職員は、当時3歳だった第2子に対しても、きちんと1対1で話を聞いていました。保護者と一緒だと、親の顔色をうかがってウソをついたり遠慮をしたりする可能性があるからでしょう。

子どもをこわがらせないように、おもちゃや絵本のある部屋で、臨床心理士もついての聞き取りでした。わたしの場合には相性やタイミングがよかったのだと思いますが、児童相談所の方たちの子どもへの対応については、いまもよい印象を持っていますし、感謝すらしています。ただ、どのような出会いになるかは、ケースバイケースでしょう。我が家は通報されたので介入されることになりましたが、DV家庭であっても児相とは一切関わることのない場合のほうが多いかもしれません。

わたしたち母子3人は近所の子ども家庭支援センターで児相からヒアリングを受けました。夫も別の日に別の場所でヒアリングを受けたはずです。その結果として、すぐにでもお子さんとお父さんを離したほうがいい、と児相職員からわたしは対面で告げられました。

Tips 68
児童相談所は子どもの虐待が疑われる通報を受けると、48時間以内に出頭・聞き取り・家庭訪問などの調査を行う(通称・48時間ルール)。

加害者、被害者、どっちが出ていくべき?

さて、父子を離すには、さきほども書いたように別居しなくてはいけません。
当時住んでいた自宅は2LDKで70平米ほどありました。また持ち家でした。そこにわたしたちが残り、夫がどこかシングル向け賃貸でも見つけて出ていってくれたらよかったのですが、弁護士を通じてそう申し入れをしても、夫は応じませんでした。

なお、「配偶者ひとりだけ」と「親子」とで比べると、親子が新居に移るほうが費用がかさむため、別居が避けられないとわかった時点で、自分が出ていくことを選ぶ加害親も中にはいるそうです。というのは、そのような事態を招いてしまう加害親は、相手や子どもたちの転居費用を自分が出さざるをえないかもしれない、という状況になってようやく、「じゃあ、自分が家を出るほうが引っ越しは安く済むんだからそうするか」と経済的観点から判断するのだそうです(子どもたちを住みなれた家にいさせてあげよう、といった配慮からではなく)。

そのような事例も少なくないと弁護士から聞いていたので、我が家もどうか子どもをひきつづき自宅に住まわせたいと考えていました。
しかし残念ながら、我が家には別居するほどの家庭問題などないのだ、もし別居して期間が延びていけばいずれ離婚がほぼ確定的になってしまう(数年別居した上で離婚裁判を起こすと、離婚が成立するケースが多いです)のでそれは嫌だ、という態度を、夫が崩すことはありませんでした。

日本でも、加害者が退去する法整備を

日本では残念ながら、DVがあったとしても加害者を強制的に引っ越させることはできません。保護命令といって、家庭裁判所に申し立てをして危険性が認められれば、加害者を家に近づけないようにすることはできるのですが、それはあくまでも一時的な措置(2ヶ月間の退去命令)であって、その間に被害者側が引越しの準備をしなさいよ、という、「つなぎ」でしかないのです。

ここはぜひ、法律が改正されて、諸外国のように、被害者ではなく加害者が家を出るように義務づけられてほしいと思います。

最近は、学校での「いじめ」対応でも、被害者が保健室登校を余儀なくされるのはおかしい、加害者こそ出席停止や別室登校にすべきだ、という考え方が出てきています。DVも同じようにすべきだろうとわたしは考えます。

Tips 69
日本では、DV被害者が自分の家でそのまま安全に暮らすための法律はない。物理的距離をとることに加害者が応じない場合、被害者が家を出るしかない。

わたしが児相の「父子を離して」を重視した理由

さて、児童相談所から「お父さんとお子さんとを離してください」といわれたと書きましたが、それは命令ではありません。あくまでもおすすめ(助言指導)です。命令されたわけではないのに、なぜわたしが焦って「別居しなくては!」と考えたかというと、児童相談所はしばらく観察をつづけて状況が改善されていないと見ると「調査」のために「一時保護」といって、子どもたちを施設に入れることができるからです。

わたしも最初はこのあたりの仕組みが全くわかっておらず、弁護士や自治体の福祉課から教えてもらって知りました。そこで、児相の職員と話すときは、もしかして子どもを施設に取られてしまうのでは……と緊張して向かいあっていたのを覚えています。

児相が子どもを保護して施設に入れるのは、家庭に置いておくよりもそちらのほうが安全だと考えるからです。基本的に2ヶ月を限度として、保護している間に、その子の家庭が安全な場所かどうか、家に戻していいかどうかを調べて決定します。

子どもの福祉(幸福)のための措置なのですが、ただ、実際に一時保護施設に入ったことのある人の体験談をネットで探すと「つらかった」という声がたくさん見つかりました(施設ごとの差が大きいようです)。また、その間は学校や習い事などにもいけず、教育の機会が奪われてしまいます。子どもにそういった思いはさせたくない、と強く思いました。

Tips 70
児童相談所は子どもを一時保護施設に保護できる。入所期間は2ヶ月が上限。親の働きかけで出すことはできない。

子どもたちが、もし施設に入ることになったら?
生まれてからずっと毎晩一緒に寝てきたのに、いきなり親元から離されてちゃんと眠れるだろうか? 集団生活で、好きなおもちゃや本もなく、食事やおやつも望んだものが手に入るわけではなく、毎日必須の飲み薬や塗り薬も服用できなくなるかもしれない。わたしはそんなことはとても耐えられない、と思いました。

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ですので、児童相談所の職員から「お子さんをお父さんと離したほうがいいです。なるべく早く。というのも……」と告げられたとき、食い気味で「はいっ! もう、家なら探しています。不動産屋さんにもいきました! ただ、女性ひとりですとなかなか審査が厳しくて、まだ決まっていません!」と答えました(嘘ではなく、実際に探していました)。やたらに声が大きく、場違いに元気いっぱいだったかもしれません。とにかく、子どもを保護されてはいけない、とだけ考えて必死だったのです。

さて、次回は、母子3人での家探しと引越しについて書きます。

当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は7月15日(月)公開予定です。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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