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男女の性差とDV【逃げる技術!第17回】ケア労働と社会構造

DVから子連れで逃げた編集者の藤井セイラさんが「安心・安全・HAPPYなDV避難」を描くエッセイ。モラハラって何? どこに相談する? 親にどう話す? お金は? 「離婚だって結婚情報誌みたいに明るく語りたい!」と、体験談&Tipsをつづります。

イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)

DVには、性差が大きく関わっている

DVというと、夫が妻を殴っているような図が思い浮かぶ方も多いと思いますが、実際には「女性→男性」という事例もあります。以前は見えにくかったケースが可視化されてきて、女性のDV相談などに応じる女性相談員(婦人相談員)とは別に、新たに「男性相談員」を置く自治体も登場しています。

しかし、やはりDVは「男性→女性」というケースが多く、性別が大きく関わる暴力だとわたしは考えます。実際に内閣府の調査(配偶者暴力相談支援センターの相談件数)でも、女性からの相談は約11万9千件であるのに対し、男性からの相談は3千件となっており(令和4年度)、女性の被害者の方が圧倒的に多いのです。

その理由のひとつにはまず体格差があります。もちろん個人差もあるのですが、筋肉量が違うので、身長が同じくらいであれば、両手首を押さえこまれただけで、女性側は身動きがなかなかとれなくなってしまうでしょう。

なぜDV被害者に女性が多いのか?① 
男女には体格差がある。

女性らしい言葉づかい、女性らしいふるまいが、拒絶を難しくする

またひとつには、言語における「女性らしい言葉遣い」、また文化における「女性らしい所作やふるまい」も関係しているのかもしれません。以前のわたし(DVからの家出を決意する前のわたし)は「いつ、いかなるときでも乱暴な言葉遣いはしてはいけない/したくない/すべきではない」と信じていました。

丁寧な言葉づかいを保つことが知的だとも考えていましたし、女性らしいふるまいこそが「嫌われないための処世術」だと思い込んでいた気がします。これは、幼いときからの環境や教育の賜物(影響)、社会の要請によるものでしょう。

しかしいまは「やめて」「やめて下さい」ではなく、ときには、「やめろよ」「やめろっつってんだろうが!!」とあえて男性言葉、低い大声で拒絶を示すことも、自衛のためには必要だ、と考えています。なぜなら乱暴に相手の権利やスペースを侵してくる人間は、こちらが丁寧に接したところで、おなじように丁寧に返してくれるわけではないからです。

例えば人ごみや駅などで意図的にぶつかってくる男性(俗称・ぶつかりおじさん)の存在が、近年SNSで知られるようになりました。そんな相手に出くわしたときには、「ええッ!?」と大声でいうだけで一瞬ひるむことがあります。まさか女性がそんなふうに「無礼」に「抵抗」するとは予想もしていないのでしょう。

なぜDV被害者に女性が多いのか?②
社会的にふさわしいとされる言葉遣いやふるまいが男女で異なり、
女性は拒絶や抵抗をはっきり示す強い言葉を持たないことが多い。

なぜ拒絶できなかったのか、と被害者は自問する

またDVに「男性→女性」のケースが多い理由には、近現代における性別役割分担の思想や、賃金格差も遠因としてあるのではないか、とこのごろ考えるようになりました。これは、自分の体験を見つめ直し、言葉にしていくうちに思いいたったことです。ですので、この連載の場を持てたこと、そして読んでくださる方たちに感謝しています。

どうしてあのとき、わたしは夫に「ノー」といえなかったのだろう?
どうしてあのとき「イヤだ」と拒否できなかったのだろう?
そのように思い出す場面(分岐点)は無数にあります。

わたしが早いうちに拒絶しなかったからこそ、やがて夫の加害の対象が子どもにも広がって、児童相談所が虐待だと見なすような事態になったのではないか。そうだ、やっぱりわたしが悪いのではないか、と繰り返し思ってしまうのです。

「やっぱりわたしが悪かった」と考えては、暗い気分になり、書く手が止まってしまう。もともと編集者としても仕事をしており、書くスピードはわりと速いほうだと思っていたのですが、こと自分の受けたモラハラやDVについては、書いては消し、書いては消し、なかなか進みません。

女性と男性の大きな差、それは妊娠の可能性

また、男女差の大きなひとつに、妊孕性(にんようせい)が挙げられます。

女性の多くは、おもに10代の後半から40代・50代頃まで、妊娠して出産する機能を持ちます(この機能という単語は、誰かのための「役割」という意味ではなく、たんに生き物として備わっている、という意味で使っています)。

性成熟した女性は妊孕性を持ちますが、それは自分の意思でコントロールできるものではありません。参考程度に生理周期を把握することはできますが、妊娠したいと望んでもできるわけではありません。また意思やタイミングだけで避妊できるものでもありません。

性暴力やデートDVなどで、時に望まない妊娠をさせられることもあります。この恐怖は男性にはないものでしょう。もちろん、男性への性加害というものも存在はしますが、女性が被害者の場合は、「命だけは取られたくない」そして「妊娠だけはしたくない」と考えて性暴力の場面で相手の言いなりになってしまう場合があります。

なぜDV被害者に女性が多いのか?③
女性のみが妊孕性を持っており、それが性暴力の場面では、
恐怖や脅迫として機能するから。
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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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