2023.11.20
相談するって難しい【逃げる技術!第3回】合わなかったら「チェンジ!」も大事
「夫婦なんてそんなもの」って、本当でしょうか
この、福祉課で出会った相談員さんの対応は、同じような内容をある精神科医に話したときとはまったく違っていました。
わたしは第1子を産んだ数ヶ月後から、それまで通りに生活することが難しくなってしまい、朝起きられない、涙が止まらない、料理をしようとしても手足が止まってしまい、台所の床に座り込んで気がつくと1時間以上が経っている、ということが頻繁に起こるようになってきました。
頭痛や肩や腰などの半身の痛みも激しく、鎮痛剤をほぼ毎日のように飲むようになっていました。このように動作が緩慢になったり身体の痛みが出たりするのもうつ病の症状の一種だそうですが、そのときのわたしにはわかっていませんでした。
一方、わたしは夫からいつも「アスペ」「KY」「ASD」「お前のせいで俺はカサンドラ(※)になって苦しんでいる」といわれていたので、それは申し訳ないと思い、少しでも自分のありようを改善したいと思って、発達障害の大家として評判の精神科クリニックに通っていました。
(※)カサンドラ症候群のこと。カサンドラ症候群とは、家族など身近な人が自閉スペクトラム症(ASD)のためにうまくコミュニケーションが図れず、心的ストレスによって心身に不調があらわれる状態。医学的な疾患名ではない。
何回目かの受診の際、お年を召した院長先生に「どうしても最近、苦しさが増してきている。夫は家事や育児をしない。わたしは仕事をしてお金を稼がないとならず、そうしないと夫に怒鳴られるのに、保育園には落ちたし、夜眠る時間を削って働くしかなくて、赤ちゃんも目が離せないし、夫は厳しくて、いつも文句ばっかりいわれる……」と思いきって打ち明けたところ、ハッハッハ! ときわめて豪快に笑われて、目をカッと見開かれ、
「あのねぇ、夫婦なんてそういうものだよ!」
と喝破されたのです。
疼痛、過眠や不眠、緩慢な動作などは「怠け」ではなくうつ病の症状の可能性も。病院を受診する場合には、もし原因がDVだと推測されるなら、初診日がのちのち重要になることもあるので、領収書を保管しておいて。
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「お金がないなら我慢して結婚してるしかない。ワハハハハハ!」
その高齢の男性精神科医は
「あのねぇ、うちにくる60代、70代の女性の患者さんなんて、全員そうだもの。みーんな旦那の悪口ばっかりいってるよ! でもしかたないでしょう。そうしないとお金がもらえないんだったら、我慢して結婚してるしかないわな。ワハハハハハ!」
ひるみながらも
「お金……、お金だったら、それなりに稼いでいます」
というと、その先生はスンッと笑顔を消して
「ああそう。じゃあ、離婚すれば」
といいました。それができなくて(離婚してくれと夫に頼んだことはそれ以前にもあったのです)心につっかえている感覚があるから思い切って専門家に相談したつもりだったのですが、ああ、なーんだ、という抜け殻のような気持ちが残りました。そこでは薬も出されませんでしたし、毎月1回、半年ほど通ってじきにいかなくなりました。
また、それきり夫との関係について、病院や自治体の乳児健診などで口にすることは二度とありませんでした。「これは医療系の専門家に話すようなことではないのだな」と心に刻み込まれたからです。
いま思えばその判断は間違いでした。1人のドクターに話してピンときてもらえなかったとしても、また別の人に話せばよいのです。転院した先のドクターにも伝えるべきでした。医師じゃなくても、看護師さん、保健師さん、保育士さん、心理士さん、子ども家庭支援センターの職員さん、児童館の先生。
みんな会うたびに
「ねえママ、最近何か困ったことはない? 大丈夫?」
と聞いてくれていたのに、わたしは胸の奥に黒いものがうずきながらも
「大丈夫です」
と答えていました。
話したって、どうせなんにもしてくれないんでしょう、といういじけた気持ちもありましたし、不完全な家族だと思われたくない、我が子がかわいそうな子どもだなんて思われたくない、という見栄に似た気持ちもあった気がします。
これってDV? もしかして虐待? ちょっとしたモラハラくらい我慢すべきかな? といった気がかりを、思い切って誰かに話したのに取り合ってもらえなかったら、ショックですよね。でも心を強く持って、迷わず「チェンジ!」すればいいんです。次、いきましょう、次! ぜひ、他の人に相談してみてください。
あなた自身に起こった出来事だけでなく、あなたが見かけた「いじめっぽい行為」や「虐待っぽい光景」についてもおなじです。ぜひスルーせず相談や下記のような窓口へお電話をお願いします。その勇気が、誰かを救うかもしれないのですから。
もし相談してとりあってもらえなくても、友人、知人、両親でもいい、医師、看護師、保育士、保健師でもいい。しっくりくる答えが見つかるまで、勇気を出して相談を。
24時間体制の、内閣府によるDV相談はこちら。 0120-279-889 (つなぐ・はやく)
虐待かも……? と思ったら、189(いちはやく)にお電話を。児童相談所につながります。東京都福祉局は「東京OSEKKAI(おせっかい)化計画」と銘打ち、虐待の疑われる場面に遭遇したら迷わず電話を、と呼びかけています。
冒頭で、「適切な窓口に相談することが大切」と書きましたが、適切な窓口というのは、人によってそれぞれだと思います。またタイミングによっても異なるでしょう。わたしの場合は役所の福祉課にとてもお世話になったのですが、行政が福祉に注力している地域だったので巡り合わせがよかったのかもしれません。
みなさんにとっても(別にモラハラに悩んでいるわけではなくても)どこか、誰か、困ったときに相談できるところがありますように!
わたしは夫から離れようともがく過程で、実は「相談する」というのは非常に技術のいることなのだな、と思うようになりました。勇気も胆力もいりますし、問題をすくい上げる力、言語化する力も求められます。
ですから最近、子どもには「園や学校で困ったら自分だけで解決しようとしなくていいよ。すぐ先生やお友達に話してね」「それでダメならママに教えてね。かならず助けるから」と折りにふれて伝えるようになりました。
次回以降は、福祉課で
「夫さんから離れるための家出の準備が進んだら、こことここに連絡してくださいね」
と勧められたさまざまな機関や、必要な各種手続きについて書きたいと思っています!
当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は12月4日(月)公開予定です。
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