2023.11.20
相談するって難しい【逃げる技術!第3回】合わなかったら「チェンジ!」も大事
親子のトラブル? 夫婦のトラブル?
最初に電話したとき、
「あのー、夫が子どもに手を上げて、それでご相談をさせていただきたく……」
と、あたかも「親子間のトラブル」であるかのように話していました。わたし自身、実際にそういう意識でした。
これまでは自分のことだったから我慢できてきたけれど、子どもへの暴力、しかもまったくの謝罪なし! という「事件」が発生し、「これだけは人として許せない。一線を超えた!」と感じて相談に至ったのです。
この結婚って失敗なんじゃないの? という長年のモヤモヤはたしかにずっとありました。しかしわたしはデモデモダッテ状態におちいっていました。
「……そうはいっても食べるのに困っているわけじゃないし」
「べつに、ボコボコに殴られたり蹴られたりするわけじゃないし」
「ギャンブルや不倫をしているわけではないし」
「まあ、夫は毎日会社にはまじめにいっているのだし」
などなど、これまで通りの生活を続けるために、わたしはわたしにつねにいいわけをしていたのです。DVを受けているという認識も薄く、また「家庭内暴力」だなんて言葉はちょっと重たすぎて、自分の口から発するなんてとんでもない! という感じでした。
しかし相談員さんはプロです。スキルも経験値も高く、たくさんの被害者プロファイルをその身の内に蓄積しています。
ですから電話口でのわたしのおどおどとした話しぶりから、おおよそ見当がついていたのかもしれません。
夫婦間にDVがあっても、被害者側にはっきりとした自覚がない場合、「子どもへの加害」という形で現れて初めて気がつくこともあります。
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「飲」「酒」「厳」「禁」の福祉課で
たどりついた福祉課のカウンターは、他の部署に比べてなんだか古ぼけて見えました。張り紙が多いためにそう感じるのでしょうか。同じ役所の中にあっても、これまで訪ねたことのある住民票交付窓口や保育課にあった、いきいき、はつらつとした、あわただしい雰囲気とはかなり違います。
ふと横を見ると「飲」「酒」「厳」「禁」と大書され、日に焼けたA4の紙4枚がテープで壁にとめてありました。その下にはひとまわり小さな文字でこう書かれています。
「酔っぱらっている人は、相談できません」
なにをいっているんだ、と反射的に思いました。
ここは区役所だぞ、お酒だなんてとんでもない、そもそも平日の昼間だし。
そして次の刹那、あ、そっか、とシュンとなりました。ここは、いつも酔っていてお酒をやめられなかったりする人も、なんとかしたいと願ってやってくるんだ。
実家の親は、もしわたしが東京で福祉課のお世話になっていると知ったらどう思うだろう。嘆く? 悲しむ? 怒る? 恥ずかしいという? ああ、こんなことを想像すること自体、わたしの差別意識の証だわ、とも思いました。
役所に来るときのいつもの用事、「住民票の写しを1枚。マイナンバー抜きで」とか「一時保育の申し込み方を教えてください」というのとは違う、「どうかわたしと子どもを助けてください」という、おおげさな、そして自分の恥ずかしいところや弱いところをさらけ出すような用件で(少なくともその時点ではそう感じていました)、わたしだってここにやってきたのです。
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