2022.5.14
【中村憲剛×島田慎二対談 後編】 サッカー界、バスケ界にふたりが危機感を覚えている理由とは?
各クラブの取り組みや成功事例をシェアしていく重要性
中村
BリーグはJリーグより歴史こそ浅いかもしれませんが、勢いや盛り上がりを見ても肩を並べてきているような感覚を僕は持っています。島田さんはどう感じていますか?
島田
まだまだマイナーですよ。
中村
そうですか? 僕はそんなことはないと思うんですけど……。
島田
日本で野球やサッカーに追いつこうと思うのであれば、発想を180度変えていくことが必要です。そもそも私は雑草タイプの人間ですから、Bリーグのチェアマンだからこそ引き受けたと思っています。私自身はまだまだバスケは日本ではマイナーだと思っていますし、マイナーだからこそ面白い。新しい付加価値をどうつけていくか、プロモーションはどうするかなど何でもいいんですけど、どうやって対抗していこうか考えていくのが楽しいところなんです。だから、固定観念に縛られることもありません。野球、サッカーという先輩が歩んできた歴史から学んだことを、短いスパンでやれるのが第3勢力の強みです。今は攻めるとき、だとも思っています。
中村
第3勢力ならではの強みというと、たとえば?
島田
そもそも実業団中心のNBLと、いまと比べたら小規模ですがプロでやっていたbjリーグが、一本化することとなりBリーグが誕生しました。千葉ジェッツがbjリーグに所属していたころは、琉球ゴールデンキングスの木村さんや、秋田ノーザンハピネッツの水野さんなど、自ら借金をしてリスクを取っている野武士のような社長が集まるリーグでした。みんな生きていくために必死だからナレッジシェア(知識の共有)なんて当たり前の文化がありました。ただBリーグができ昇降格制が生まれて、コート上は競争、オフコートはナレッジシェアとなると、どうしても難しくなって。
中村
なるほど、そこは繊細なところですね。ただ、それはわかる気がします。
島田
そこで一気にナレッジシェア文化が乏しくなってきたので、これはいけない、と。野球、サッカーや他クラブの経験を短時間で学んで成長スピードを上げてきたようなことが、第3勢力の強みであるはずなのに、手の内をみんなが明かさないとなると良い事例も吸収できませんし、スピード感のない組織になってしまう危機感を持ちました。だからBリーグで「ビジネス・マネジメント・ベース(BMB)」という、参加する各クラブの成功事例やうまくいかなかった事例などを集めてシェアするワークショップのような試みを始めました。昨年からスタートして今、力を入れてやっているところです。
中村
すばらしいですね。これも危機感からなんですね。
島田
はい。ただ、リーグ主導でやるのはスタートで、あとはクラブ同士で持続していくということがゴールです。きっかけづくりはしても、ずっとリーグが与え続けるものではないと基本的には思っていますから。地域を規模も歴史も異なるクラブが生きていくために貪欲に勉強していくのは当たり前。だからその両方の観点を持って、取り組んでいるということです。
憲剛さんの映画は、フロンターレの成長と成功の歩みをつまびらかにする、まさにナレッジシェアの好例だと思っています。
中村
ありがとうございます。僕もフロンターレのことだけじゃなくて、実はサッカー界全体に危機感を覚えています。たとえばワールドカップ予選での日本代表の結果も、同じ畑のサッカー関係者と会えばそういう話になりますけど、そこから一歩外に出た時にこれは思った以上に関心が低いぞ、と思いました。そういう意味では冷静な客観視が大事だなと感じています。島田さんは、野球とサッカーを追いかけてとおっしゃってくださいますが、意外とそうじゃないという危機感が肌感覚としてあるんです。
島田
私もそうですよ。スマホでバスケ関連の検索をするから、どんどんバスケの情報が入ってくる。それを見ていると盛り上がっているんじゃないかと錯覚してしまうんですよね。憲剛さんが言うように、大事なのは自分のいる世界から一歩出て、本当にどれだけ関心を持たれているのか、その感覚を忘れちゃいけないですよね。忘れてしまうと打ち手も変わってしまいますから。
中村
島田さんの話は本当にいろいろと勉強になります。時間が経つのが、あっという間でした。
島田
本当ですね。私も今日初めて憲剛さんとこうして話すことができて、Jリーグの理念そのものを体現している人物なんだなって本当によく分かりました。選手としてだけではなく、クラブの価値を上げていこうと一生懸命にやってこられた。サッカーを愛して、クラブを愛して、地域を愛して。そういった話をぜひBリーグの選手たちにしてもらいたいです。今度は私から声をかけさせてください。
中村
僕なんて、とは思いますけど、チェアマンから直々にそう言われたら、断れないです(笑)。
島田
ぜひ、お願いいたします(笑)。これからもサッカー界のため、日本のスポーツ界のため、頑張ってください。
中村
バスケとサッカーがお互いに刺激しあって、高めあっていけたらなと思います。本日はありがとうございました。
(おわり)
【ケンゴの一筆御礼】
島田チェアマンはイメージどおりの方でした。確固たるビジョンがあって、実行力があって、そして何よりも熱量をすごく感じました。うねりを起こしていくには、熱量が欠かせません。島田さんというリーダーがいるBリーグは、これからもっとうねりを起こしていくんだろうなと率直に感じました。自分のことを「雑草」と表現されていましたが、僕も大学時代は何者でもない「雑草」でしたから、勝手にシンパシーを感じました。BリーグとJリーグはライバルであり、同志。ぜひ一緒に日本とスポーツ界を盛り上げていければと思っています。また島田さんの熱量に触れたいですし、いい刺激をいただけたらなと思います。島田チェアマンありがとうございました。
この連載は不定期連載です。次回はどんなゲストが登場するか? お楽しみに!
(取材時は感染対策を徹底し、撮影時のみマスクを外しています)
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元千葉ジェッツ社長として、クラブを事業面、強化面ともにリーグトップに成長させた実績を持つ、現B.LEAGUEチェアマンによる「経営者」「ビジネスマン」「ファン」「スポンサー」「地方自治体」……すべての立場に役立つ、わかりやすいスポーツビジネスの教科書決定版。