2022.5.14
【中村憲剛×島田慎二対談 後編】 サッカー界、バスケ界にふたりが危機感を覚えている理由とは?
Bリーグが盛り上がりつつある今だからこそ、やるしかない!
中村
僕からもひとつ島田チェアマンに質問させていただいていいですか?
島田
もちろんです。
中村
島田チェアマンは2020年にBリーグの3代目チェアマンに就任されました。リーグの基盤というものもおそらくできてきたんじゃないかと感じています。先程、2026-27シーズンから単年の競技成績による昇降格制度を廃止する話もありましたが、Bリーグや、ひいては日本バスケ界が近い将来、どのようになっていくのがベストか。島田チェアマンのお考えを知りたいのですが。
島田
強化や育成のところだと、まさにサッカーの歴史に置き換えてみると分かりやすいと思うんですよ。ワールドカップ予選でしたが、木村和司さんが国立競技場で韓国を相手に伝説の直接フリーキックを決めたのが1985年ですよね。私が子どものころは日本がワールドカップに出られるなんて考えられなかった。でも1993年にJリーグができて、育成のシステムも確立していったわけじゃないですか。1998年に初めてフランスワールドカップに出場し、2002年の日韓ワールドカップがあって、それを見た子どもたちが感動してサッカーを始めてという流れができた。30年、40年かけて築いてきたものが今につながっています。つまり、我々が今やっていることはきっと、サッカーと同じように20年、30年後につながっていくんだろうな、と。
そのために大事なのは専用のアリーナでBリーグの試合を観て、バスケをやってみたいと思う子どもたちを増やしていく。育成のシステムを確立させて、指導者を養成していく。Bリーグは、ユースの仕組みもサッカーを参考にさせてもらっています。ひいてはそれらのことが日本代表の強化につながっていくと考えています。
中村
20年後、30年後のバスケ界につながる仕組みづくりの一方で、Bリーグを盛り上げていくことが最も大切なことだ、と。
島田
子どもたちが、保護者の方たちがバスケの試合に足を運ぼうと思わなかったら、何も起こらないですからね。だから我々は今、夢のアリーナをフィーチャーしているんです。
中村
川崎ブレイブサンダースの試合に、うちの子どもたちをとどろきアリーナに連れていき観戦させていただいたんですが、演出にもバスケの迫力にも魅了されて、子どもたちが興奮気味に「また行きたい!!」とすぐに言っていました。演出やプレーを間近で見れて僕も興奮しましたし、ワクワクしました。あの雰囲気を体感したら、バスケをやりたい!!っていう子どもたちはこれから増えていくでしょうね。
島田
だからこそ今、アリーナなんです。もうちょっとBリーグが盛り上がってから(新アリーナ建設に)動けばいいんじゃないかという声ももちろんありましたけど、先送りにしたところでそんな状況は生まれません。「プロ野球やサッカーのスタジアムは非日常的な空間でいいよね、でもバスケは頑張っているけどやっぱり体育館だもんね」と思われると、これ以上のブレイクがないままになってしまうと思っています。だから今やるしかないんです。
【※編集部注。2021年に沖縄アリーナが竣工。以降もSAGAアリーナ、OTA ARENA、ららアリーナ 東京ベイ、神戸アリーナ、長崎アリーナ(以上、すべて仮称)など続々と、新アリーナが誕生予定】
中村
やらないより、やる。とてもいい言葉だなと思います。やらなかったら何も起こりません。アリーナができて盛り上がれば地域活性化にもつながると思うんです。コロナによって、「スポーツの価値って何だろう」と、ある意味初めて考えさせられた気がしました。それまでは当たり前のように、人前で練習して試合してだったので、できなくなって初めて真剣に向き合わざるを得なくなりました。そして、これも失って初めて気づきましたが、スポーツやエンタメのない世界はとても味気のないものでした。なんていうのでしょうか……あの時は外出もままならなかったので、大袈裟に言うと砂を噛むような、白黒の世界でした。やっぱり生活を彩りのあるものに、元気にさせていくのがエンタメであり、スポーツであると改めて思ったんです。
島田
本当に。同感です。