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【中村憲剛×鈴木桂治対談 後編】「金メダルを獲っただけは長続きしない。たかが金メダルなんです」

「北京」と聞くだけで心がモヤモヤするほどの日々だったと語る鈴木さん。
「北京」と聞くだけで心がモヤモヤするほどの日々だったと語る鈴木さん。

金メダルを獲っただけは長続きしない。たかが金メダルなんです。

鈴木 
憲剛くんは結果が出ない時期があっても、あきらめずに頑張って勝った。だから喜びも大きいだろうし、羽根が生えるという感覚になるんだと思う。自分の場合は、アテネ五輪で金メダルを獲ったけど、北京五輪では負けてしまった。「勝った後の負け」はかなりダメージが大きい。

中村 
メンタル的にはどうでした?

鈴木 
北京五輪では日本選手団の主将をやっていたから、こんな恥ずかしい話はない。惨めに感じたし、メンタル的にはかなり参りました。でも負けて勉強になったことも多かった。JOCからオリンピアンに「覚悟」というテーマで講演する依頼があって、僕も話す機会があった。その時、ジュニアの選手たちに「負ける覚悟」と題して話をしたことがありまして。

勝つ人間は各階級一人しかいない。負けたときに、自分の人間性が出る。勝ったら逆に、自分じゃない自分が出てくるもの。負けたときの所作が大事になってくるので、そのときの精神状態もイメージしておかなきゃいけない。そのような話をしたんです。(前編の)最初の話に戻りますけど、東京五輪でメダルを獲れなかった選手がいるので、今後どうしていくかをしっかり見ていきたいし、いろんな話をしてきたいと思っています。

中村 
僕も(勝ったこと負けたこと)どちらも経験できたのは、指導者を目指すうえではとても大きかった。やっぱり勝ってないと最終的なところで説得力がないし、結果が出ない時期を経験しているからなぜ勝てたか、逆にどうして勝てなかったのかも知ることができたから。引き出しをたくさんつくれたことは本当に良かったなって。

鈴木 
まあ、負けないに越したことはないんですけどね。

中村 
そう、試合前から負けてもいいと思っている選手なんていない。でも、試合には勝ち負けが必ずあるわけで。負けることもある。だから大事なのは負けをどう糧に変えていけるかどうか。プロ生活で経験できるものはほとんど経験できたので、指導者としてどう自分が成長できるか。そこが自分でも楽しみではあるんです。

鈴木 
金メダルを獲っても長続きしない。注目されるのは1年ももたない。だから「今のうちにバズらせておけ」と選手に言うんです。ただそれでも1年が限界。たかが金メダルなんです。金メダルを獲って人生を棒に振る選手だっているかもしれない。もちろん金メダルの恩恵はしっかり受けたほうがいい。その一方で、その後の人生がどう豊かになるかをちゃんと考えておかないといけないと僕は思う。

中村 
いや……「たかが金メダル」は取った人しか言えない言葉だね……。重いな。金メダルを獲ったからわかることでもあるし、言えることでもあるのかな。

鈴木 
憲剛くんはこれから監督として活躍してもらいたいし、サッカーを盛り上げてほしい。指導者って、楽しいことばかりじゃないけど、苦しいことばかりでもないから。

中村 
桂治くんからそう言われると、すごく励みになる。

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中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式X@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

鈴木桂治

すずき・けいじ●1980年6月3日生まれ、茨城県出身。国士舘中、高、大、大学院卒。早稲田大学大学院卒。
2004年アテネ・オリンピック100kg超級金メダリスト。紫綬褒章受章。20年10月、国士舘大柔道部総監督に就任。男子日本代表の重量級担当コーチも務める。21年4月より国士舘大学体育学部武道学科教授。3児の父であり、釣り、サーフィン、ゴルフなどアクティブに活動中。
公式ブログ■【絆】柔道家・鈴木桂治オフィシャルブログ
公式ツイッター@keijisuzuki594

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