2021.9.11
【中村憲剛×鈴木桂治対談 前編】僕たちは若い選手や後輩にどんな言葉を与えていくべきなのか?
ウルフ選手への決勝前の言葉は「これ勝ったらバズるぞ!」
鈴木
ウルフはディフェンス力のほうが高くて、とにかくスタミナがある。追い込まれれば追い込まれるほどテンションが上がっていく選手なので、ゴールデンスコア(延長戦)にどうにかして持っていきたいわけですよ。だから対戦相手もどちらかと言うと、早く勝負をつけたがる。
中村
対戦相手からもそんなふうに認識されているんですね。
鈴木
でも試合前は臆病なところもあって「先生、どうしたらいいと思いますか?」って直前になっても聞いてくる。だから聞かれたら答えるし、ちゃんと飲み込んでやってくれるというやり取りができる。
中村
臆病なところがあるというのは意外かも。
鈴木
あとウルフは目立ち屋でインスタのフォロワー数とかすごく気にする。
中村
えー! 今どき(笑)。
鈴木
そうそう。だから決勝の前も「これ勝ったらバズるぞ!」と(笑)。
中村
乗せ方がうまい。
鈴木
フランスとの団体戦決勝では階級が上の(テディ・)リネールと戦ってもらうとなって、最初は彼も乗り気じゃなかった。でも、彼は僕以来、歴代8人目となる全日本、世界選手権、五輪の「3冠」を達成した選手。だからウルフに「3冠を達成したお前に何が求められていると思う? それはリネール撃破! 勝ってみ? 3冠を達成した歴代の先輩たちを超えちゃうぞ!」と。
中村
そうしたらウルフ選手は?
鈴木
「超えますかね!?」と聞き返してきた。だから「一瞬だよ!」と。そうしたら「やります!」と言ってくれて。結果的には残念ながら勝てませんでしたけど。
中村
名コーチ。ウルフ選手の性格を把握して、どう乗せていくか熟知しているからできること。師弟の関係性がガチッと決まっているから(言葉も)響く。でも「バズるぞ!」とか、指導者も時代に合わせていかなきゃいけないんだなって、すごく考えさせられます。
鈴木
今の選手はみんなSNSやってますよ。フォロワー10万人が目標とか、この人にフォローされたとか、目で見てわかるものが若い世代のモチベーションになっている気がする。サッカーはどうなの?
中村
いや、みんなやっているけど、でも僕「バズるぞ!」とか言ったことない。「投稿とかはまめにやったほうがいいよ」って言うくらい。自分としてもフォロワー数とか気にはするけど、メインは「数」じゃなく「中身」だと思っているから、ちょっとベクトルは違いますよね。若い人が大事にしているのは「数」なんだってわかったことだけでも勉強になった。そういえばスケートボードで金メダルを獲った堀米雄斗選手のフォロワー数がバーンと増えたっていうのもニュースになっていたし。
鈴木
堀米選手が金メダルを獲った翌日かな、そのニュースを知って、移動のバスのなかでみんな「スゲエ」って言ったので「お前らにもチャンスあるぞ」って。
中村
このSNSの流れは、止められないですね。
鈴木
止められないでしょ。試合終わってゼーゼー言いながら帰ってきているのに、落ち着くと携帯触っていますから。まあさすがに監督の前ではやらないですけどね。