よみタイ

美容院探しとヘアスタイル

 そしてメンバーズカードを捨て、新しい店を探しはじめた。ちょうど引っ越したこともあったので、最寄り駅の近くにあればと、インターネットで検索したら、私の希望に合致する店がいくつかあった。散歩がてら様子を見に行き、ここならいいのではと感じた、うちから徒歩五分のところにある店に予約を入れた。
 そこも女性のオーナー一人でやっている店だった。私よりも少し年下だと思うけれど、彼女の雰囲気が素敵だと感じたからだった。失礼ながらモデル体型でもないのだが、その人らしさがあってとてもいい。髪の色がクリームイエローなのも気に入った。はじめて店に入って鏡の前に座ると、
「どうしてうちに来ようと思ったのですか」と聞かれた。
「自分なりに調査をして、ここならばと思って来ました」
 と話すと、彼女は笑いながら、
「変わってますねえ。うちのような店を選ぶなんて」
 という。
「ええっ、そうでしょうか」
「うちの店はね、近所の方はほとんどいないんですよ。こんな髪の毛の色をしているおばさんのところで、髪を切りたいなんて思わないでしょう」
「そうですか? そこがいいと思ったんですけれど」
 といったら、
「奇特な方ですね」
 と笑っていた。
 着物を着る機会が多いので、ショートカットにしたいというと、彼女は鏡の前で、私の髪の毛に触れ、長さを確認しながら、
「着物を着るのなら、おっしゃるようにショートにするか、肩くらいまで伸ばして、自分でまとめるかでしょうね。ショートといってもベリーショートは似合わないし、ある程度、長さがあるほうがいいわね。ボブスタイルで若く見える人もいるけれど、あなたは違う」
 ずばっといわれて、思わず笑ってしまった。「髪の毛の状態も使っていたシャンプーの成分が変わったみたいで、どんどん変になっていくんです」
「縮毛矯正しているのかと思ったの。もともとのいい癖があるのに、シャンプーが殺していたのね。今のシャンプーはたくさんの成分を入れ込みすぎているから、気をつけないといけないんです。オーガニックっていっても、それだけじゃ分子が大きすぎて、髪の毛に浸透しないから、化学物質を入れなくちゃならないんだけど。それがね、問題を起こすから。きっと、これまでお使いのシャンプーも、リニューアルのときに成分を変えちゃったんでしょうね」
 と教えてくれた。
 

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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