よみタイ

美容院探しとヘアスタイル

 以降、そういったことはなくなったが、気になったので、友だちにその話をしてみた。一人はずっと決まったサロンに通っていて、もう一人はサロンは決めておらず、カットが必要になると、そのつど違う店に行っているのだという。私が前の客の毛がついたケープの話をすると、二人とも、
「それはだめよ。ありえない」
 と口を揃えていった。
「そうだよね。ちょっとひどいよね」
 といい、私はまた新しい店を探さなくてはと思うようになった。
 カット中の雑談の話題も、世の中の割引やクーポン券、バス旅行の話などをされるのだが、私はどれも興味がないので、話がはずまない。彼女がプライベートなことを聞かないので、私も一切、話さなかったが、仕事をしているとは伝えていた。
「お休みの日は何をしているんですか」
 と聞かれたので、
「うーん、本を読んだり、襦袢に半衿をつけたり、編み物をしたりしているかな」
 といったら黙ってしまった。客層は中高年女性が多いといっていたので、割引やバス旅行の話は、客が喜ぶ話題だったのかもしれない。私が着物が好きだと話すと、彼女は仕事上、フォーマルな着物の着付けも依頼されるので、それに関しては話が続いたのだけれど、私が持っている色無地紋付きの話になったとき、
「その色無地ってどんな柄ですか?」
 と聞かれたので、
「色無地は無地染めだから柄はないけど。柄って反物の地紋のことですか」
 と聞いたら黙ってしまった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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