2022.11.23
パンツを穿いた土偶とDNA
また外からではまったくわからなかったが、お腹が出たと嘆いていた運動嫌いの人は、お腹の肉をぶるぶると振動させる器具を購入して、ソファでテレビをぼーっと観ているときに着けているといっていた。
「効果はあったの?」
「うーん」
そのときは購入後三カ月ほどだったので、はっきりとした効果はまだわからなかったらしいが、八年過ぎても何も報告がないところをみると、彼女には効果がなかったようだ。
最近では若い女性たちは、乳が垂れるのを怖れて、ナイトブラというものを着けて寝ているらしい。私が若い頃も、将来、胸のラインが崩れるのを防ぐため、日中と同じものを着けて寝たほうがいいという話をちらっと聞いたことはあった。私も含め、そのときの周囲の女性たちの感想は、
「ブラジャーがはずせて、やっと楽になれるのに、寝ているときにまで着けるのはいやだ」
が大多数だった。今は昔と違って、下着に使われる素材もよくなっているのだろうから、寝ていても着け心地はいいのかもしれない。しかし最近、たまたまインターネットで見かけたコメントでは、
「ナイトブラを着けて寝るようになってから、悪夢を見るという人が多いらしい。自分も戦場にいる夢を見た」
とあって、いくら楽になったといっても、下着を身に着けていないのに比べて、胸部や背中の部分に圧迫感があるのは間違いないので、それが悪夢に影響しているのかもしれない。
何にしても人知れず努力を続けるというのは、よいことだ。私はそれができないだけである。遮光器土偶の先はどうなるのかと考えると、背丈は縮むだろうが、基本的な体型は変わりようがない。それならば母親のスタイルのよさは受け継がなかったけれど、私は古代からのDNAを継承して、堂々と生きていこうと思ったのだった。
次回は12月28日(水)公開予定です。お楽しみに!
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「しない生活」だからこそ見えた、大切なこと、やりたいこととは……。
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