2022.10.26
外ネコ探しとテラスの足跡
こんな私なので、あまりにネコの登場を渇望するあまり、空耳アワーになっている可能性もあるので、
(本当? ネコ? ネコなのかな)
と首を傾げながら、そしてなるべく足音をたてないように、すり足の早足で庭のほうに向かった。そしてそーっとカーテンの陰から見てみると、何と、マンサクの木の根元で、白とキジ柄のネコさんが、のんびりと和んでいるではないか。
(い、い、いたああ、いたああ)
興奮状態になりながら、これは友だちに報告しなければと、スマホが放置してある場所まで、再びすり足の早足で往復し、ガラス越しに撮影したが、うまく撮影できなかった。もうちょっと顔がよく見られるようにと隣の部屋に行き、そこの窓から何とか姿を撮影できた。声をかけて逃げられると困るし、かといって過剰に接触はできないしと、じーっと窓から見つめていたら、気配に気がついたのか、その子が私のほうを見上げた。逃げるかなと思ったら、彼はまばたきをして、
「おう、お前がここに住んでるのか」
というような態度で私をじっと見た後、何事もなかったかのように横を向いて、のんびりと手足を投げ出した。そしてまた、
「あうー」
と鳴いた。斜め上に向かって鳴いたので、明らかに私に向かって鳴いたものではなく、さきほどの声も室内にいる私を呼んだものではないとわかった。
もう一度、隣の部屋に移動し、ガラス戸にはりついて観察してみると、耳の後ろの毛が少し抜けていて、皮膚病に罹っているようだった。ほどよく汚れている体全体の感じから、飼いネコではない。TNR(飼い主のいない猫を捕獲し[トラップ]、不妊手術をし[ニューター]元の場所に戻す[リターン]取り組み)もされておらず、保護活動をしている方たちから逃れているようだった。しかしはじめての人間を見ても、動じないところといい、余裕で和んでいる姿といい、このあたりでお世話になっているのは間違いなさそうだ。御飯やおやつは遠慮なく何でもいただくけれど、体には触らせないといった性格のようにみえる。このあたりはマンションよりも戸建のほうが多い地域なので、飼いネコではないけれど外ネコでもない、通いネコ方式でこれまで生きてきたのかもしれない。年齢は八歳から十歳といったところだろうか。
耳の後ろの肌荒れと毛が抜けているところを治してやりたいけれど、何もできないのが歯痒い。まあそれが、外ネコでは仕方がないことといえばそうなのだが。あの態度は明らかにボスネコなので、ボスと名付けた。だが他に外を歩くネコを見ていないこともあり、彼がボスの座に鎮座するほど、周辺に手下のネコがいるのだろうかと心配になった。私の知らないところで、手下たちが集まっているのかもしれないし、ボスにとっては住宅街の人間たちが手下なのかもしれない。
どちらにせよ、ネコがちゃんと棲息しているのがわかって、本当によかった。すぐに伸びる雑草を取りつつ、失礼がない程度に隣家の庭を隅から隅まで見ては、ボスが現れないかと楽しみにしている。濃厚接触はできないが、彼が来てくれたおかげで、やっと私はこの場所に落ち着けた気がしたのだった。
次回は11月23日(水)公開予定です。お楽しみに!
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