よみタイ

鏡の中の老女とおばあさん問題

 そして無事、ベストは編み上がった。途中で、
「もしかしたらサイズが小さいのでは」
 と不安になったけれど、サイズ1の通りに編み上がった。指定糸の質のおかげか、しっかりとした編み地で、毎日着たとしてもそれに耐えうる、「働いてくれるベスト」のような気がした。私がミスをしたところもいくつかあったので、この試作品を元に問題がある部分を修正して、これからセーター、前開きのベスト、カーディガンも編んでいくつもりだ。
 襟ぐりの作り目がきつかったのがいちばんの問題だった。以前、このベストと同じく、襟ぐりから編みはじめるセーターを編んだとき、ふだんやっているようなゆるめの作り目から編み出していったら、襟まわりががばっと大きくなってしまったので、今回はきつめにしたのがいけなかった。本には作り目や、そこから編み出す編み目はゆるめにと書いてあったのに、それに従わなかったせいである。前に編んだセーターの糸は細くアンゴラが入っていて、とても柔らかかったのが影響したのかもしれない。
 対処法としては、襟ぐりの二目ゴム編みの部分を、本では途中で針を細いものに替えて編むように指示されていたのを、替えずに編んで、ゴム編み止めをゆるめにして、何とか乗りきった。
 腕が短い私は、セーターを編むときは、袖丈を計算し直したほうがいいかもと、編み上がったベストを着たり、脱いでまじまじと見たりして、あれこれ考えた。着るには少し暑くなってきたので、再び寒くなってきたら、ベストを着て動いてみて、また修正点があれば、次に編むセーターなどに活かしたい。編みはじめるのは今年の秋くらいからになるだろうけれど、カーディガンのためのボタンもすでに二種類購入したので、時期を見計らってただ編むのみである。
 編み物熱に拍車がかかってきて、ベストを編み上げてしまうとまた何か編みたくて仕方がなくなったが、毛糸のものは編み上がっても身につけられないし、かといって夏物衣類を編むのはちゅうちょしてしまう。夏物も編んだ経験はあるが、せっかく時間も手もかけて編んだとしても、汗をかくので劣化が早く、同じ手間をかけるのに、お別れするのが早くて不毛な気がする。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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